【番外編】開発合宿で出会った3人が作ったお小遣い帳田口元の「ひとりで作るネットサービス」探訪(2/2 ページ)

» 2007年10月03日 00時50分 公開
[田口元,ITmedia]
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 「絶対、俺たちのアイデアの方がいいはずなのに!」。

 そう強く思っていたチームメンバーは合宿終了後、箱根湯本駅近くの喫茶店ルノアールに集まった。「絶対、これを仕上げてリリースしよう!」。そこでさらにアイデアを詰め、プロジェクトを「いいめも」と命名。その場でドメイン、ememo.jpも取得した。

 その後、3人で週末ごとに集まり、企画を詰めていった。古川さんは出勤前の時間を使い、開発を進めていった。開発言語はRuby、データベースにはSQLiteを採用した。

左から鶴羽さん、古川さん、北村さん

 ただ、開発は順調ではなかった。鶴羽さんのアイデアを実現するにはさまざまなハードルがあったためだ。当初の企画はかなり高機能なものだった。「PCからでも携帯からでも自由にメモできて、そうした情報がToDoなのか予定なのか住所なのかなどを自動判別して、さらにタグでの分類もできるツール」。これらすべてを実現するにはあまりに多くの時間がかかることが分かってきた。

 どうすればこうした機能をサービスに組み込んでいくことができるか……。チームが悩んでいたときに北村さんが言った。「正直、タグとかよく分からない。メールだけでメモできればいいんじゃないかな?」。その一言がきっかけとなり、方向性が一変した。「そうだよな、タグとか自分でも使わないよな」「全部いっぺんにやる必要はないんじゃないかな」

 議論の末、究極までシンプルに機能を削ぎ落としていった。「よし、おこずかい帳に用途を絞ってみよう」。メールで日々の支出を気軽にメモしていけるサービスにすることにした。シンプルすぎるのでは──という心配はリリース直後のユーザーからの反響で吹き飛んだ。

 「これなら使えそう!」「ちょwww、シンプルすぎwww」「こういうアイデア、俺も考えていた!」。ソーシャルブックマークやブログでの反響は上々だった。

 極めつけは1通のメールだ。「鶴羽さんの母親に聞いて使ってみたのですが……」。鶴羽さんの母親が友人に伝え、その友人から機能改善要望のメールが来たのだ。

 「作ったからにはネットに詳しい人だけではなくて、一般の人にも使ってもらいたいと思っています。メンバーの母親が友達に説明し、その友達も使うことができた、というのはすごく嬉しかったですね」。古川さんはそう笑いながら教えてくれた。

 ただ、機能を削ぎ落としてシンプルにしても、随所にチームのこだわりが組み込まれている。たとえばメールの文体だ。「メールを送ったら『登録が完了しました』といった無機質な返事には絶対したくありませんでした。ユーザーに話しかけるような文体にして、親しみやすさを演出しています」

 またメールで支出をメモした後に返ってくるメールは、初めてのメールと2回目のメールでは内容が異なっている。「1回使ってみたユーザーがもっと便利に使えるように、2回目のメールにはちょっとした使い方のコツを書いてあります。そうしたゆっくりユーザーが学習できるような仕組みも組み込んでいます」

お小遣い帳から生まれたダイエットツール

 メンバーはそれぞれに本業がある。仕事の合間にプロジェクトを進めるにあたり、活用しているのがWikiとホワイトボードだ。Wikiにはサービスの改善案やミーティングの議事録などをすべて記録している。また、更新するたびに全員にメールが飛ぶように設定されている。「アイデアを書き込んだらすぐにチーム全員が知ることになります。そのアイデアに対して何か言いたいならWikiを更新していくことになります。Wikiで会話をしている感覚です」

ミーティングの議事録、思いついたアイディアはWikiで一元管理している

 ホワイトボードは古川さんが愛用している小型のものを4枚使う。カフェでミーティングをするときは机の上にこれを広げ、図でまとめながら議論を進めていく。「ナプキンで消すこともできるのでお勧めですよ」(鶴羽)。鶴羽さんは使い方もコツも教えてくれた。

 しかしこうしたツールよりも、「とにかく会うことが大事」とメンバーは言い切る。会うときはたいてい半日、忙しくても2〜3時間は確保してサービスについて真剣に議論する。「相手の言っていることが分からなければ素直に分からないと言います」。そうして議論を重ね、相手のやりたいことを1つ1つ理解していくことが、会社の枠を越えてプロジェクトを進めていくための一番の秘訣だという。

いいめもプロジェクトのアイコンは鶴羽さんが手書きで描いている

 「いいめも」プロジェクトではおこづかい帳に続き、ダイエットに使えるツールもリリースした。これは「おこづかい帳」を試したユーザーの声から生まれた。「このツール、岡田斗司夫さんのレコーディング・ダイエットのように使えるかもしれませんね」。

 なるほど、と思ったチームはダイエット用にプログラムを作り込んでみた。毎日食べたものを淡々と記録していくだけのツールが完成。実際、鶴羽さんはそれを使い続けて、体脂肪率の改善に成功したという。

 「自分たちが本当に使うものを作っていきます」。会社の枠を越えて活動する「いいめも」プロジェクトチーム。「何かを変えたい!」と望んだ3人が実現したサービスは確実に彼らの人生を変えているようだ。

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