スペックが劣る携帯を選び、アプリを入れないPCを使え──ベッコアメ創始者尾崎さん達人の仕事術

皆さんの中にも、その昔ベッコアメにお世話になった人たちはたくさんいるだろう。日本の個人向けインターネット接続サービスの元祖、ベッコアメ。その設立者であり、現在、ダンボネット・システムズを経営している尾崎憲一さんの仕事術とは──。

» 2007年09月18日 00時00分 公開
[高橋暁子,ITmedia]

 「インターネットは楽しい」。その思いで、個人向けインターネット接続サービス国内第1号となる「ベッコアメ・インターネット」を作り上げた尾崎憲一さん。当時、法人向けのインターネット接続サービスはいくつかあったが、値段が高く、個人ではとても手が出ない時代だった。「個人でインターネットをやる時代が来る」と信じ、個人接続サービスをやってほしいと大手に申し込んだが笑い飛ばされた。「日本ではありえない」といわれたのが、約13年前、1994年のことだ。ほとんど使命感のみで作り上げたベッコアメは、瞬く間に個人ユーザーの間に広まっていった。

 そんな日本のインターネットユーザーの父的存在である尾崎さんのオフィスにお邪魔する前は、当然、高性能なPCやディスプレイがずらりと並んだオフィスを想像していた。ところが、実際は、ルーレットやダーツの台がある、とてもオフィスとは思えないような環境。PCや携帯環境も想像とはかなり異なっていた。その裏には、一体どんな考えがあるのだろうか。

スペックが劣る携帯と、アプリを入れないPCを使え

 「僕は、PCもPDAも持ち歩かないんですよ。外出する時は携帯だけ。メモは手帳にとります。PCはその時のスペックの一番いいものを買って5年は使っています。PCの環境も、Netscape、Internet Explorer、Officeのほか、せいぜいネットワークを経由して遠隔地のPCを使用するTelnet、FTPのツールを使っているくらいです」

ノートPCと携帯のみ。外出時は携帯だけで出かけていくというシンプルさだ

 中でも携帯電話は、一番スペックが劣る機種をあえて買い続けているという。「スペックが最低という枠の中で、最大公約数の仕事をしなければならないからです。いいスペックのものを持っていると、その世界でしかものが考えられなくなってしまうので、避けています。みんながQuickTimeをインストールしていなかった時代にQuickTimeで動画配信をやろうとした会社がありました。ユーザーがクリックした瞬間、動画が再生されるのではなく、QuickTimeのダウンロード画面になってしまうことが多かったものです。そのように、アプリをダウンロードする必要がある場合、実際にダウンロードまで行う人は10%以下になってしまいます」

 PCにも特殊なアプリケーションはインストールしない。その姿勢は徹底しており、今ほどどんなサイトでも使われるようになるまでは、Flashさえ使わないようにしていたという。サイトもCookieを使わないなど、意識して徹底的に下に合わせている。プラグインは入れず、一番下を意識した物作りを忘れないこと。アプリが入っているのを前提にしないこと──。その心がけは、忘れたことがない。

飲み会で名刺交換は禁止

 尾崎さんは、毎晩7〜8時からの飲み会を大切にしている。「飲んでいる時に出てくる発想、アイデアは何よりも大切です。スペシャリストがいるから、自分で調査するよりあっという間に答えが出てしまいます。そういう人たちも、昼間にオフィスに呼んだら仕事になってしまいますよね。飲んでいる時は仕事ではないからこそ本音が出てくるのです。もちろん、僕もできる限りその場で何でも答えています」

 尾崎さんにとって飲み会はゲーム「Wizardry」で冒険者がチームを組む“ギルガメッシュの酒場”だ。共にビジネスをする仲間を見つける場所となっており、今までに飲み会から始まって作った会社は10くらいあるという。

 そんなわけで、尾崎さんは飲み会はどんなものも断らない主義。午後7時から飲み会の予定があっても、誘われたら、その飲み会が終わった後の「午前0時から2時までは空いている」と答えるようにして、必ず時間は作る。ただし、そこで盛り上がったビジネスの話を、酒の席だけの話にしないのがポイントだ。そのため帰宅後の午前3時から5時は飲み会での話を文章にまとめてメールしておくなどの固着化させる工夫も欠かさない。調べてほしいといわれたことも、その日中に調べて連絡しておくと、相手からの評価がアップするそうだ。

 また、RSSなどを使わない尾崎さんにとって、飲み会はお勧めの最新情報を集める情報収集の役も果たしている。飲み会にいる信頼できる人たちのアンテナに引っかかっていないものは自分でやる必要がないと判断するのだ。Second Lifeなどは飲み会で勧められ、すっかりはまってしまった。

 「トイレに行きたくなるから行くのと違って、アイデアはひねり出せといって出てくる物ではない」というのが尾崎さんの考え。ましてや、会議があるからアウトプットを生むというのは不自然だし、いいものは生まれてこない。いいアイデアは、食事、トイレ、飛行機の中、お喋りの時間など、会議以外の場所から生まれてくることが多いという。

 「自分と身内だけで新しいものを生み出そうとするのには限界があります。バクテリアも、同種ばかりおいても変化しません。しかし、外に置くと刺激が入ってきて新しい物が生まれます。アイデアも同じだと思います」

 ただし、異業種交流会は良いとは考えていない。「それぞれが欲しいということしか言わず、全員がもらうことを考えて営業してばかりなので、結局誰ももらうことができない」からだ。『プレゼント交換会』のように、お互いが持ち寄らねば盛り上がらないというのが持論。そこで、自分が会を開く場合は、名刺交換は禁止している。禁止することで情報のやりとりが起こり、その場が盛り上がる。後でメーリングリストなどに名簿を流す方が、いい交流ができるのだそうだ。

 尾崎さんは同時に、飛行機はあえてビジネスクラス、新幹線はグリーン車に乗り、積極的に隣の人に話しかけるようにしている。食堂車ではわざと相席になって、会話をするきっかけを作るようにしている。

 「ビジネスクラスやグリーン車は、なかなか会えないような人たちとゆっくり話せるチャンスなのです。ビジネスクラスで知り合って以来付き合っている人も多いですよ」

発明が必要の母であれ、フェチであれ

 「必要は発明の母といいますが、発明が必要の母でなければならないと思うんです。たとえば世界で初めてラジオを製造販売した会社がありますが、ラジオを売るためには放送局と面白い番組が必要です。ラジオが必要だから製造販売したのではなく、製造した後で必要と思わせて販売しているのです。商売する場合は、そのように常に仕掛ける側から考えておかなければならないと思います」。技術がいくらすごくても、ニーズを同時に作らなくては、販売はできないというのが持論だ。

 尾崎さんは、何に関してもオタクを目指すという。Googleで単語を検索した場合、8時間あまりも同じ言葉の検索結果をたどり続けていることもあるほどだ。当然、サーフィンが終わるとその言葉の“博士”になっている。「コンピュータのエンジニアも、仕事でしかコンピュータに触れない人より、とにかくコンピュータが大好きでひたすら触っている人が勝つに決まっています。『好きこそものの上手なれ』という言葉通りです」

 「カジノで電子出目表があればいいな」と思ったのをきっかけに、電子出目表のシステムを作って特許を取り、商品にしてしまったという尾崎さん。オフィスにスタジオ兼カジノルームを作るという凝りようは、まさにその考えを実践している。

仕事の時はテスト用スタジオだが、時々仲間内の社交場ともなる(もちろん、賭け事はなしで)。オフィスには本物のカジノセットが数台並び、ちょっとした店よりも豪華な作りだ

 「『誰かよりも秀でていることがあればそれがどんなくだらないことでも金が儲かる』は、『ハスラー2』でのポール・ニューマンの台詞ですが、まさにその通りだと思います。広く浅くではダメです。狭くても深く、どうせなら評論家や博士と呼ばれるくらいになるべきだと思います。そうすると、その視点に立たなければ見えないことが当たり前に見えるようになるのです」

 そうすれば、普通に使っているものや、必要と思ったものが商売になる。それは、インターネットは楽しいと感じ、個人用インターネット接続サービスの必要性に気がついてベッコアメを作った尾崎さんならではの、重みのある言葉だった。

プロフィール
お名前 尾崎憲一 (おざき けんいち)
経歴 1967年千葉県松戸市生まれ。東京電気大学理工学部卒。東芝入社後、1994年9月に国内初の個人向けインターネット接続サービスを開始、料金固定制の導入と、業界初のユーザーホームページサービスを始める。同年 12月ベッコアメ・インターネット設立。平成9年12月 ダンボネット・システムズ設立、同社代表取締役就任。
PC ソニー VAIO TypeE
携帯電話/PDA(データ通信カードを含む) ドコモ D903i
デジタルカメラ
ブラウザ Internet Explorer、必要に応じてNetscape
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