7つの着眼点で「出席したい会議」を考える樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

型にはまった会議ばかりを開いていえば、時代に取り残されてしまう。意思決定プロセスという側面だけではなく、参加者全員のアイデアを磨き合う場面でもある。誰しもが出たい会議をどのように実現すればいいのか──。

» 2007年09月07日 19時24分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 会議の目的は何か。関係各位と話すことで共通の理解を得て、皆で知恵を絞って、ベストの結論を出すこと──が一般的な回答だろうか。

 結論が99%あるいは100%決まっているのに会議を開く組織はけっこう多い。もちろん表面上は会議での自由な議論の結果だ。「筋を通して」あるいは「公正に」決定を受け入れることになっている。そうした会議は、全員がお茶を飲みながら静かに淡々と進んでいく。

 このような型にはまった会議ばかりを開いていえば、現在のグローバル化、情報化、変革の時代に飲まれてしまう。硬直した会議はダイナミックな議論もないし、参加者全員の力を集約できないからだ。

理想の会議に至るルール決め

 会議をどのように成功させるかのカギは、参加者の多数が議論に参加するかどうかにかかっている。

 見たまえ、社内会議で面白くないのは、とにかく発言する人が決まっていたり、会議の初めから終わりまで上役の発言で重要事項が決定してしまうときだ。参加者は、初めからその人がどう考えるかを聞いてからでなければ発言しなくなってしまう。

 毎回の会議が“硬直化”してしまうと、誰しも参加したくなくなり、参加してもほかのことを考え始める。少しでも顧客の問い合わせなどがあると、これ幸いに飛び出して帰ってこない。会議が終わったとき、ため息とともに「俺がいなくてもよかった」「俺には関係がなかった」「発言させてもらえなかったから、ひどい結論になった」などの気分になるなら、会議を避けたくなるのは当然だ。

 会議が大切だということ自体はみんな承知している。「少数の会議」で「時間通り」に始まり、誰もが「平等」で「自由」で「発想とユーモアにあふれ」ていて、「スピーディー」で「具体的」で「前向き」でパワフルな「結論が出て」、充実感を感じながら「時間通りにピタッと終わる会議」。これなら誰だって出たい。

 会議は、会社の重要な意思決定プロセスという側面だけではなく、参加者各自の中にストックされた発想を発表し、磨かれる場でもある。会議は極めて重要な思考のネットワーク化の機会であるのだ。重要なシーンだからこそ、どのような会議が行われているかを会社はもっと重視してもよいはずだ。

 ブレインストーミングでも、1)質より量、2)自由な発想を妨げてはならない、3)批判厳禁、4)他人の発想に便上する自由──などのルールがよく知られている。会議の運営も、会社ごとに基本ルールを定めてもいいだろう。例えば、1)議題事項の事前配布、2)遅刻厳禁、3)会議時間の厳守、4)全員発言保証、5)即日議事録──などである。むしろ当たり前のことといえそうだが、それらに加えて「迅速処理」や「眠くない会議」「お茶お菓子用意」など社風に応じて特色を付けられるはずだ。もちろん、たくさんあると覚えきれないで選別する必要があるが。

 以下、ルール決めで考えておきたいことを会議の段階に従ってまとめた。

会議前

 時間に制約のある会議を有効活用するには事前の準備が大切だ。特に重要な会議の場合、検討するための資料を事前に配布すると、議題を説明せずにすむ。次いで、その資料について各参加者から事前に感想を収集しておく。開催の前日ないし直前には、出席者に簡単な通知と資料の持参をお願いしておこう。ただし、あまり重要でもない会議でしゃくし定規にこれらを実行すると疎まれる。“勝負”の会議だけにしておくこと。

資料は分かりやすく

 膨大な資料は会議で読めるはずもない。要点を分かりやすくまとめ、提案書の図形化は当然。Excelの大きな表や画像の資料はA3サイズの場合もあるが、A3ではファイルがしにくい。Nアップ印刷や両面印刷などの技巧も凝らして、サイズをそろえよう(1月22日の記事参照)。できればA4サイズに統一したほうがいいだろう。それから、一部の単語を赤い文字にしたからと言って、わざわざ全体をカラー印刷するなよ。

役割を決める

 全員発言に近い会議運営のコツは若手に準備と司会をさせること。司会は必ず発言するので、社内会議では特に無口な人に任せるのも方法だ。人員に余裕があれば、会議中は議事録に専念するスタッフをメインとサブの2人を用意する。重要度によっては年長者も即日チェックするのを原則にするのがよいだろう。会議の議事録の即日作成は、事前の徹底した準備があればはるかに簡単になる。そもそも議事録から会議を動かす方法もあるので参考にしてみてほしい(2006年10月の記事参照)。

時間通りに開く

 会議を時間通りに開くのは大前提。会議の開催を忘れてしまったり、理由もなく遅れて入ってくる人は、厳罰に処すべきだ。たかが10分でも時間が惜しい。筆者の経験上、“罰金”を設けると効果が高い。ただし、現金だと何かと問題なるので、遅刻者にはコーヒーをおごらせるなどの「ドトール単位」や社内の食券などで“罰金”を支払わせよう。トップが罰金箱を設けるなどを決めて励行する。

議題があるから会議を開く

 重要な議題がないなら、定例の会議であってもやめるか、会議が始まったら簡単に説明して解散することが望ましい。上級幹部が出席欠席に関わらず同じように判断する。ただし、定例会議なのに開催取り止めを繰り返すと、重要な会議のときに誰も出なくなってしまう危険性は指摘しておこう。

発言は平等

 参加者の経験値はそれぞれなのは知っているが、経験をかさに新人や若者を、頭ごなしに怒鳴ったり、発言途中で割り込んだり、馬鹿にした言い方をしたりするのは、絶対にやめる。「何でも自由に発言してください」とニコニコしながら始めておいて、ちょっと基本的な質問をするだけで文句まがいの反論を行うのは、ある種の詐欺といえる。そうした体験が続くと、会議に参加している若手社員が「会議PTSD」にかかり、一生涯会議で発言する気がなくなる。大切な会議で全く発言しなくなると、決まってその後にボソボソ文句を言うことになるのだ。

長い会議をしないようにする

 予定時間になれば会議は終了するべし。使っている会議室に次の予約が入っていると会議を終えざる得ないので都合がいい。その一方、会議が長くなるのを予測して、会議室の予約を長めに確保しておくのはやめよう。みんなそれぞれに予定がある。雑巾を絞り続けても、雑巾は雑巾。出る発想も出なくなる。司会は参加者の眠気度も測るべし。幹部だからといって、堂々と寝るのを許してはイカン。


「会議運営改良委員会」を設けてルールとノウハウを徹底

 ルールとノウハウは徹底して共有しよう。例えば「会議運営改良委員会」を設けて、各部門をまたいで会議をチェックしていく。会議運営改良委員会が社内資格の1つとなり、時には会議に飛び込み参加してでも、会議の流れを変えていくことが望ましい。基本ルールは美しく印刷して、全会議室の誰でも見えるところに貼りつけるのだ。

 とはいえ、これらの社内会議基本マナーの設定は、現在の日本においては、会議なしにトップダウンで決まることから、日頃の悲惨な会議の犠牲になっている部下たちは、どうすればよいのかという秘訣をここで教えよう。

 まずこの記事をプリントアウトして、できるだけ上役に参考資料として回覧させるのもいいかもしれない。ずっとずっと上のほうまで回すことが肝心だ。上役が「君は当社の会議が、ここに書かれているように惨めで悲惨というのかね」と尋ねれば、慎重に次のように答えることだ。「いや、当社も会議風土のために基本のルールを決めてはどうかと思うのです」。ここまで印刷しておけば、まず上役からの質問もないだろうが。

今回の教訓

ルールを決めたら実行あるのみ。厳密に適用し、柔軟に改正しよう。


著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら

「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう」について

 この原書「100 Things to Do Before You Die」(邦題:死ぬまでにする100のこと)は英国でのベストセラーです。筆者は英ヒースロー空港で入手しました。帰路の機内で読み、あまりの面白さに帰国するや英国の出版社に連絡を取ったものです。この本を日本で出版させて欲しい──。そして、技術評論社での出版が決まったのです。

 世界には、まだまだ素晴らしい発見と体験があります。あなたは、いくつ実行したいと思うでしょうか? なお、橋本大也氏もブログ「情報考学 Passion for the Future」で書評を掲載しています。ご興味ある方はぜひご覧ください。


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