仕事をいつも突貫工事で仕上げている方。計画力の必要性を実感している人は、本書で「計画が失敗する理由」「計画実行のポイント」を探ってみてはいかが?
加藤昭吉『「計画力」を強くする』(講談社刊)
日本人が得意とする突貫工事も、工期の残りが少なくなるまで“終わり”をみようとしない、あるいはそこまで行かないと“終わり”がみえないことから起きることだといえます。
それでも、建設工事のように期限がはっきりしている仕事についてはよいでしょう。経営や政治や人生のように期限がみえにくいことについては、実際に壁に頭をぶつけて動きがとれなくならないと、危機を危機として認識できません。(p.60)
本書は、計画手法であるPERTを日本に紹介し、その普及に貢献したとされる著者による、計画力の指南書。計画力とは「優れた計画を立案し、その通りに実行したり実行させる能力」であり、ビジネスパーソンにとっては欠くことのできないスキルの1つといえる。
目次も含めて全体を眺めてみてすぐに気づくのは、本書の内容が構造的かつ整然と組み上げられていることである。例えば、全6章のうち第1章を除く5つの章については、次のような構造が順守されている。
第2章以降のポイントの箇条書きは次の通り。
このように各章ごとにポイントが整理されており、実に読みやすい。読みやすいと感じる理由の1つは、読み手としての自分が筆者の文脈上のどのあたりに差しかかっているのかが容易に把握できるからだろう。いわば、カーナビ付きのクルマを運転しているような安心感を覚える。
いうまでもなくカーナビを使うには、最初に目的地を設定する必要がある。目的地の設定をせずに出発することはできない。計画の立案とは適切な目的地の設定であり、計画の実行はカーナビに沿ってクルマを運転すること、ということになる。
本書の内容は、計画の立案とその実行の大きく2つに分けられる。計画の立案については第2章〜第4章で、計画の実行については第6章で、それぞれ解説されている。残る第5章は「プロジェクト」という具体的なテーマを掘り下げながら計画力の実践論を展開している。
冒頭に引用した建設工事の事例が示しているのは、厳格な期限の下で目的とする建築物を正確かつ迅速に組み上げるという課題であり、これは建設工事に限らず、どんな仕事においても直面する課題であろう。
BOOK DATA | |
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タイトル: | 「計画力」を強くする |
著者: | 加藤昭吉著 |
出版元: | 講談社刊 |
価格: | 840円 |
読書環境: | ◎書斎でじっくり △カフェでまったり ×通勤でさらっと |
こんな人にお勧め: | 日々の仕事には自信が芽生えつつあるが、数年後の自分の仕事についてはイメージがわかない、という人。 |
この課題に対して、著者は「もう少し時間軸を将来へ延長して“終わり”から現在を見て今何をしたらいいかを考えるようにすべきなのです」という対策を提示している。
つまり、“終わり”という壁の存在に真っ先に目を向け、実際に壁に頭をぶつけて動きがとれなくなる前に必要な手を打つこと、それが計画力の真骨頂といえる。
著者はさらに、パスカルの「人間は不確かさのために働く」という言葉を紹介しながら、計画力を「不確かさに満ちた未来に挑戦する力」としている。本書を通読することで、不確かさを壁として認識できるようになるための方法と考え方が得られるはずだ。あとは実行するだけである。
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