実践!シゴトハック:自分で立てた予定を守る(4)【解決編】シゴトハック研究所

予定どおりに仕事が進められなかったとしても、「残業すれば何とかなる」あるいは「休日出勤でカバーできる」と思っていませんか?

» 2007年06月29日 13時03分 公開
[大橋悦夫,ITmedia]

今回の課題

 ペア・ミーティングの副次的効果とは?

 コツ:逃れられない制約を組み込む


 前回は「ペア・ミーティング」の進め方をご紹介しました(6月22日の記事参照)。顔をつきあわせて行う「ホットミーティング」では、お互いの予定に対して、“ツッコミ”を入れ合うことで、それぞれが潜在的に抱えている問題を突き止め、この段階でつぶすことができます。オンライン上で非同期に行う「コールドミーティング」では、お互いの「やって当然」を持ち上げあうことによって、モチベーションを高め合うことができます。

 これらの効果は実践しさえすれば、ほぼ確実に得られる、「ペア・ミーティング」における主たる効果といえるでしょう。これに加えて、次のような副次的な効果が得られます。

  1. 仕事の「しっくり感」が高まる
  2. 逃れられない制約が生まれる

仕事の「しっくり感」が高まる

 人は、動きのない、あるいは変化の乏しい状況に耐えられないところがあります。例えば、テレビを見ていて「しばらくそのままでお待ちください」という画面が出れば、指示どおりにそのまま固まって待つことができる人はまれでしょう。あるいは、コールセンターに問い合わせの電話をした際に「ただいま、電話が混み合っております。そのままお待ちいただくか、お掛け直しください」と言われるような場合も同様です。それゆえ、多くの企業は、待たせている間に自社商品やサービスのPR音声を流すことによって、顧客をそこに足止めさせようとします。もちろん、PRなので切る人は切るかもしれませんが、一定の宣伝効果はありそうです。

 仕事がなかなか思うように進められずに苦しむことがありますが、この状況はまさに「そのままお待ちください」と言われている時と同じで、そこから離れたい衝動にかられやすくなります。メールチェックやWebサーフィンといった現実逃避の衝動です。

 とはいえ、仕事が思うように進められない状況は、「そのままお待ちください」と言われている状況と全く同じではありません。後者は自分ではどうにもならないのに対して、仕事の場合は自分でどうにかなる余地が、少ないにせよ、あるはずだからです。

 仕事でこのような停滞に陥ってしまった時に、現実逃避の代わりに相方のスケジュールや作業日記をチェックすることは、この停滞から抜け出す上での助けになることがあります。

 自分のスケジュールはいっこうに変化しなかったとしても、一緒に仕事をしている相方のスケジュールは時間の流れとともに変化していきます。それを見れば、「こうしてはいられない」という刺激が得られるでしょう。でも、相方があまりにも順調であれば、それがプレッシャーとなって、ますます苦しくなることもあります。

 そこで、今度は相方の作業日記に目を転じます。そこから、スケジュール上は順調に進んでいるように見えるものの、「実は妥協しながらとりあえずこなしているだけ」といった状況が読み取れれば、「あぁ、やっぱり苦労しながら何とかがんばっているんだな」ということが分かるでしょう。

 もし、ここでアドバイスなり助け船が出せるようであれば、コメントを残すようにします。自分の作業は進みませんが、相方の作業は進むでしょう。少なくともそのサポートはできるはずです。こうすることで、チーム全体で考えれば、トータルでは進捗を稼ぐことにつながるのです。そう考えると、“掛け捨て”であるメールチェックやWebサーフィンに時間を取られるよりもずっとましということになります。

 その上、アドバイスをするという「ギブ」の行為は、相方に対して「お返しをしなければ」という暗黙のプレッシャーが加わります。これは「返報性の法則」と呼ばれる考え方ですが、最初から「お返し」を期待してアドバイスをするわけではなく、あくまでも「相方の役に立てそうだから」あるいは「チーム全体に貢献できそうだから」といった自然な動機が「ギブ」の行為を後押ししているはずです。

 あるいは、より単刀直入に「○○の仕事で行き詰まっている……」といった“苦悩”を自分の日記に書くという方法もあります。相方が仕事の合間にこの記述を目にすれば、できる範囲で救いの手をさしのべてくれるかもしれません。いずれにしても、ポイントは、相手にメールをしたり話しかけたりするのではなく、非同期のコミュニケーション・ベースに乗せることです。もちろん、急を要する課題の場合はこの限りではありませんが、お互いの時間を尊重し、「返答」があるまでの間は、ほかに進められるタスクに手をつけるなど、時間を有効に使うことで、全体で見たときの生産性は向上するでしょう。

 このように、“生温かくやり取りする”ことによって、それぞれ別々の仕事に取り組んでいたとしても、まるで一枚の壁のペンキ塗りを一緒にやっているような感覚になり、チームで仕事をしているという意識が芽生えます。この意識が、先に述べた「ギブ」の行為を促すようになるのです。

 1人で仕事をしていると、あたかも「賽の河原積み」のような不安に襲われることがありますが、2人で仕事を進めることで、このような不安が軽減され、仕事の「しっくり感」が高まるでしょう。

 1人で仕事に取り組むことをレンガ積み作業になぞらえれば、2人でスケジュールをシェアしながら仕事に取り組むことは、お互いが積み上げたレンガにセメントを流し込んで、より強固な壁を作ることにたとえられるかもしれません。

逃れられない制約が生まれる

 1人で仕事をしている間は、もし予定どおりに仕事が進められなかったとしても、「残業すれば何とかなる」あるいは「休日出勤でカバーできる」といった、必ずしも気の進む選択肢ではないものの、「逃げ道」は確保されている状態といえます。つまり、期限までに割り振られた仕事をやり終える、という結果を満たしさえすれば、そのプロセスは問われないことになるわけです。

 とはいえ、望ましい結果を得るためには、望ましいプロセスが不可欠です。残業や休日出勤は本人にとっては「ペナルティー」になるはずですが、人は解釈をする生き物ですから、

  • 「ペナルティーを受ければ、望ましいプロセスから外れてもいいのだろう」

 という“曲解”を導き出すこともできます。もちろん、最初からペナルティーを受け入ようと考える人は少ないでしょう。でも、思い通りに進められずに追い詰められてくると、その逃げ道として、「残業や休日出勤でカバーすればいいか」という選択肢がちらつき始めるのです。

 これに対して、2人でスケジュールをシェアして、リアルタイムに自分の仕事のプロセスが見られている、という状況に身を置くようにすることは、曲解の余地のない、逃れられない制約となります。

 ここで、ペアの利点が生きてきます。チェックするべきスケジュールや作業日記は相方1人分で済むため、お互いに逃げられない関係になるからです。これが、3人以上になると、めいめいが残り2人の状況をウォッチするのが時間的に難しくなり、そこに「逃げ道」ができてしまうのです。お神輿を担ぐ人数が増えれば、その中の1人が手を抜いても大きな問題にはならない(と感じられる)のと同じく、3人以上になると、スキが生まれるわけです。

筆者:大橋悦夫

仕事を楽しくする研究日誌「シゴタノ!」管理人。日々の仕事を楽しくするためのヒントやアイデアを毎日紹介するほか「言葉にこだわるエンジニア」をモットーに、Webサイト構築・運営、システム企画・開発、各種執筆・セミナーなど幅広く活動中。近著に『スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術』『「手帳ブログ」のススメ』がある。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ