GoogleのAPI公開は「情けは人のためならず」方式Google Developer Day 2007

GoogleがAPIを公開すれば、インターネットユーザーが増える――。APIの公開とユーザーの増加にどんな関連があるのだろうか。都内で開催した開発者向けイベント「Google Developer Day 2007」で、ネット版「情けは人のためならず」を考える。

» 2007年05月31日 22時30分 公開
[鷹木創,ITmedia]

 GoogleがAPIを公開すれば、インターネットユーザーが増える――。APIの公開とユーザーの増加にどんな関連があるのだろうか。ネット版「情けは人のためならず」を考える。

オープンソースに既存のライセンスを採用して“安心”感

 Googleの論理はこうだ。「いいサービスが生まれればユーザーが便利になり、ユーザー増加につながる。だから、いいサービスを開発する技術者を助けたい。そのためにAPIを公開するのだ」と、米GoogleのUrber Tech Lead/Managerを務めるグレッグ・シュタイン氏はいう。都内で開催した開発者向けイベント「Google Developer Day 2007」での基調講演のひとコマだ。

 「技術者を助けたい」だけでは一方的な押し付けとも捉えられかねない。GoogleがいくらAPIを公開しても、技術者に使ってもらわなければ意味がないのだ。そのためには法外な価格だったり、利用制限のあるコードでは技術者は“安心”して利用できない。

 シュタイン氏は「安心して使える仕組みが、オープンソースだ」という。氏自身、Apache Software Foundationのチェアマンを務めた経験もあり、オープンソースのシステム開発を熟知。Google APIで利用できるコードを活用してもらうために、ApacheやBSD、GPLといったライセンスを採用して利用のための自由度を高めた。Google独自のライセンスにこだわらないのは、技術者がコードを利用するために独自ライセンスを理解したり、対応したりするコストを省くためでもある。さらに、プロトコルや仕様も明文化してCreative Commonsとして公開したのである。

オープンソースライセンス 概要
Apache Software License 1.0/1.1/2.0 Apache HTTP Server 1.2などのライセンス。「1.0」には「派生物の広告には、オリジナルの著作者が紹介されていること」という、いわゆる「宣伝条項」が存在する。
BSDライセンス 無保証、著作権表示の保持、派生物の広告には、オリジナルの著作者が紹介されていることの3条件のもと、複製・改変・再頒布を認めている。3番目の「宣伝条項」を直した修正版も存在する
GNU General Public License(GNU GPL) 無保証、著作権表示の保持、同一ライセンスの適用の3条件のもと、複製・改変・再頒布を認めている。条件が緩やかな「GNU Lesser General Public License(LGPL)」もある。

コード自体は戦略的に重要ではない

 そんなオープンな姿勢で成功した例が「Google Sitemaps」だ(2005年11月の記事参照)。当初は、GoogleのWeb検索エンジンがクロールするサイトのみが対象だったが、MSNやYahoo!の検索エンジンも対象だったら、1度の登録で複数の検索エンジンに登録できる。ユーザーにとっては、ありがたい機能拡張だろう。そんな中、2006年11月にGoogle、Yahoo!、Microsoftの3社がSitemapsを利用することで提携した(関連記事)。「3社が提携することで、クローリング技術も洗練させられる。検索の“実権”を握るという意味ではない。制御ではなく、開放させることが重要だ」

 APIの開放だけでなく、社内で開発したコードもオープンソースとして公開する――。コードはGoogleにとって貴重な財産ではないのか。「ページランクやサーバ群を構築する技術は大事だが、コード自体はGoogleにとって戦略的に重要ではない」。公開しても問題ないコードが8割以上だという。

 だたし、コードを使うなら何らかのフィードバックもほしい。金銭的なものでなくていい。たとえば、公開されたコードに関する質問や感想でいいのだ。「オープンソースコミュニティには、何らかの“お礼”があってもいい。みんながハッピーになるよう、幸せを分かち合おう」。Googleからも“お礼”がある。一例が、コミュニティから採用活動だ。「オープンソースのコミュニティからGoogleに入ってくれたということは、オープンソースのコードを作り続けたいということ。それをGoogleは認めていきたい」。

GoogleのAPIも「ビルディングブロック」

 Googleに入社するというところまでは行かなくても、GoogleのAPIを使って自分たちが作りたいものを開発した会社は国内にもある。それがはてなだ。

 GoogleのAPIを活用した「はてなマップ」をはじめ、YouTubeとはてなブックマークをマッシュアップした「注目の動画」などである。はてなの伊藤直也CTOは「地図サービスはもともと開発したかったが、元となる地図の権利関係が厳しい上に、プログラムしやすいようにはなっていない。Google MapsのAPIが出てくるまでは非現実的だった」。特に、地図や動画サービスのAPIはバックエンドに大規模なインフラが必要で、個人では開発するのが難しい。そういう意味でも「GoogleのAPIは役に立った」という。

 幼いころ、レゴなどのブロック遊びをした経験があるのではないだろうか。ブロック1つでは何の役にも立たないが、組み合わせることで飛行機になったり、自動車になったり、基地になったりする。GoogleのAPIもこうした「ビルディングブロック」なのだ。GoogleのAPIに自前のサービスをマッシュアップし、さらにほかのサービスをマッシュアップさせて、思いもよらない便利なサービスを作る――そんな“マッシュアップ・オン・マッシュアップ”で「新しいアプリケーションを開発する時代なのである」(シュタイン氏)

はてなの伊藤直也氏
Google Developer Day 2007のロゴ。これが「ビルディングブロック」か?

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