考え抜かれた非常識──『頭のいい人が儲からない理由』5分で読むビジネス書

ビジネス書には、「方法論」を説くものと「考え方」を説くものの2種類がある。本書は、方法論を排除し、「常識」という言葉をキーワードに徹底的に考え方を解説する。

» 2007年05月08日 17時19分 公開
[大橋悦夫,ITmedia]
表紙

坂本桂一頭のいい人が儲からない理由(講談社刊)

 そこで私は、そのころから誰もが名前を知っているゲームソフト会社の雄、ハドソンを訪ね、「私はこれからあなたたちと同業者になる。だから、みなさんは私の先輩というわけだ。そうしたら先輩として、この業界での仕事の仕方を、後輩の私に教える義務があるではないか」と訴えた。(p.145)


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 本書は、サムシンググッドの創業者・坂本桂一氏による実践的な戦略論である。サムシンググッドは、年賀状作成ソフト「筆王」や「AI将棋」などの開発・販売などを手がけるソフトウェア企業アイフォーの前身にあたる企業だ。

 ビジネス書は、大まかには以下の2つの種類に分けることができる。

  1. 特定の目標を達成するための具体的な方法論を説いた本
  2. 特定の目的に沿った行動をするための考え方を説いた本

 必ずしもどちらか一方に寄っているというわけではなく、どちらかの要素がより多く含まれているか、という度合いを知る上での指標となる。

 この指標に従うと、本書は考え方を説いた本、ということになる。しかも「こうすればうまくいく」といった方法論を排除し、考え方を提示することに徹している。

 提示される考え方の中でキーワードとなるのが「常識」である。何かを考えようとする時にとらわれがちな常識を排除し、自分の頭で考え抜くことを筆者は強調する。

 例えば、冒頭に引用したのは、坂本氏がサムシンググッドを創業した直後のエピソード。ソフトウェア業界で仕事を始めるにあたり、必要な知識や情報を仕入れるためにはどうすればよいかを考えた末に到った結論が、「いまコンピュータで飯を食っている先輩」であるハドソンを訪ねる、という行動であった。

 しかも、アポイントなしに乗り込んでいく、という「常識外れ」なものであり、文字通り常識に照らして考えれば思いとどまってしまうところだが、坂本氏は「これでいいのである」と言う。

BOOK DATA
タイトル: 頭のいい人が儲からない理由
著者: 坂本桂一
出版元: 講談社
価格: 1365円
読書環境: △書斎でじっくり
◎カフェでまったり
×通勤でさらっと
こんな人にお勧め: 大量の情報を集めつつも、それを十分に活かすことができているという実感が得られていない人

 ハドソンは、坂本氏の突然の訪問にもかかわらず取締役をもってこれに応じ、「ソフトウェアのつくり方から流通の仕組みまで、基礎から全部説明してくれ、社内を案内してくれた」という。

 このエピソードから学べることは、「起業してまずするべきことは、先輩格の同業他社にアポイントなしで乗り込むこと」という一般化を施した方法論ではなく、そのような行動を起こすプロセスに根ざす「常識にとらわれずに考え抜く」という考え方である。

 本書には、上記のようなエピソードが多数取り上げられているため、それぞれの背景にある考え方を自分の経験と照らし合わせながら読み取っていくことで、 自然と自分なりの考え方に見直しを迫られたり、新たな切り口を見いだすきっかけが得られたりするだろう。

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筆者:大橋悦夫 仕事を楽しくする研究日誌「シゴタノ!」管理人。日々の仕事を楽しくするためのヒントやアイデアを毎日紹介するほか「言葉にこだわるエンジニア」をモットーに、Webサイト構築・運営、システム企画・開発、各種執筆・セミナーなど幅広く活動中。近著に『スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術』『「手帳ブログ」のススメ』がある。


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