“社内IRC”を駆使するエンジニアの仕事術とは――モバイルファクトリー・松野徳大さん達人の仕事術

社内システムにはIRCをフル活用し、ケータイ世代の若者に向けたサービスを提供するモバイルファクトリーで働く松野徳大さん。基本的に残業はしないのがポリシーだという。

» 2007年03月01日 20時57分 公開
[吉田有子,ITmedia]
モバイルファクトリーで所有しているセグウェイに乗る松野徳大さん

 「働くのは1日8時間。よほど差し迫ったときを除いて残業はしません」携帯向けのサービスなどを制作しているモバイルファクトリーの若きエンジニア、松野徳大(まつの・とくひろ)さんはそう話す。「ある日2時間残業したら、翌日の仕事時間から2時間差し引いてもいいくらいだと思っているんですよ。一時的なものならともかく、ずっと残業続きだと体がもちませんしね」

 モバイルファクトリーは携帯でも聴けるポッドキャスティング「Caspeeee(キャスピィ)」やブログを利用したプロモーションサービス「BloMotion(ブロモーション)」、携帯向けアフィリエイトなどを展開している。

 プログラマーの働き方は数字では測れない部分が大きく、1日8時間働いているときと同じ効率で1日10時間、12時間と働き続けることはできないとも松野さんは考えている。その場では急いで早くこなしても、あとでメンテナンスコストがかかるようなやり方はしないこと、単純作業を見つけてそれを自動化することが大事だという。

自宅にネット環境がないので、本や雑誌で勉強した

 そんな松野さんが初めてPCに触ったのは小5くらいの頃。小学校にあったPCで、OSはWindows 3.1。中学生時代には「ニューメディア研究部」という部活に加入してPCに触っていた。このマシンはWindows 95だった。

 その後、2000年に高専の電子情報工学科に進学した。学科では、半導体からPHPプログラミングまで幅広く学んだが、なかでもプログラミングが一番面白かった。卒業研究のテーマは「スパムフィルタについて」。

 こうして順調にプログラミングを学んできたが、実は、2003年頃まで「インターネットなんてけしからん」という両親の教育方針によって自宅にネット環境がなかった。当時も自分のPCは持っていたが、ネットにはつながっていない状態。学校に行けばネットにつながっているPCがあるが、1人1台体制ではないこともあり、あまり自由には使えなかった。「ネットのない状態で、いかに情報を集めてプログラミングするか、といろいろ考えてましたね(笑)」。自然と、技術系の情報は本や雑誌から仕入れることになった。

 学校の図書館でいろいろな雑誌を読んだが、なかでも「UNIX magazine」誌で2002〜2003年にかけて高林哲さんが連載していた「横着プログラミング」を愛読していた。そこに登場する友人などの人間関係も含めて高林さんが描く世界に憧れ、「この連載で道を踏み外しました」と松野さんは笑う。その後、技術者コミュニティを通じて高林さんや連載に登場した友人に実際に会うことができた。

社内システムはIRCをフル活用

 松野さんは高専を卒業し、2005年4月にモバイルファクトリーに入社。現在、システム開発部に所属している。同社は独自の社内システムを持っている。最も特徴的なのは、IRCというチャットシステムをフル活用していることだ。IRCは専用のクライアントをインストールすることで異なるプラットフォーム上でもチャットができ、Webでのチャットよりも軽く高速に動作するのが利点だ。特にエンジニアの愛好者が多い。

 モバイルファクトリーのIRCには技術系の社員だけではなく、営業、総務、経理といった部門も含めて社員全員が参加している。全員が参加するチャンネルには、「現在、水道が詰まっています」「お客さんからお菓子が届きました」のような総務系の連絡が流れる。このほか部門ごとのチャンネル、プロジェクトごとのチャンネルがある。特定の時間になったり、サーバ負荷が高まった時などには自動メッセージが流れる仕組みになっているという。

 システム開発部では、部内の連絡はIRCとWikiで済んでしまい、メールはほぼ使わない。IRCを使うメリットは、メールと違ってIRCにはリアルタイムで応答できることだ。またメールだと、「了解しました」という一言だけのメールでも過去のやりとりが延々とくっついてしまう。逆にIRCのデメリットには、相手が席にいると思って返事を待っていたが、実は席を外していた――ということもあるという。

「よくこういう姿勢で座っているんです(笑)」と、椅子を後ろ向きにして机に向かう松野さん(左)。システム開発部全員の机の上には2台のディスプレイが載っている。マルチディスプレイ(2006年10月30日の記事参照)だ

 バグ管理システム(BTS)は独自の「EggPlan」というプログラムを使っている。BTSとは、スレッド式の掲示板と同じような仕組みで、システム開発の現場ではよく使われている。バグ(プログラムの不具合)対処などのやるべきタスクを「新しいスレッドを立てる」状態にして登録し、その後の進捗を同じスレッドに書き込んでいく。トップページから見ると、現在やるべきタスクの数だけスレッドが存在し、タスクごとに進行状態がわかるようになっている。EggPlanは松野さんも「効率よく仕事をするために必須のシステムですね」と言うほどのお気に入りだ。

社内合宿で自社開発したという、IRCと連動する「EggPlan」

 以前は、営業が仕事を取ってきて開発側に作業を依頼するという流れをメールで行っていた。しかし依頼した仕事を忘れたり、どの業務が済んでいてどれがそうでないのかといったことが混乱してきて、殺伐とした雰囲気が漂ってきてしまったという。これを解決するために既存のBTSを使ってきたが、細かい点で使い勝手に不満があり、「いっそ自社開発を」と社内合宿をして作ったのがEggPlan。現在も利用しながら少しずつ改良を重ねており、将来的には外部に公開することも考えている。

 一般に社内イントラネットに何らかのツールを導入する場合、「入れたのはいいが誰も使わない」という問題が起こりうる。BTSの場合ならタスクがなかなか登録されない、などだ。しかし、EggPlanの場合はIRCと連動することでこの問題を解決している。

 IRCの会話の中で「オレがやるぜ!」と発言すると、自動的にIRCのログとセットでEggPlanにタスクが登録されるのだ。逆にEggPlanから自分にタスクが登録されると、メールとIRCで通知が来る。「毎日“やるぜコール”がかかっていますよ」と松野さんは笑う。

 社内IRCと外部のシステムとの連携も進んでいる。ソーシャルブックマークとしてlivedoorクリップを使っているが、ブックマークしたURLのうち、社内のシステム開発部で共有しておきたいものには「for.mf」というタグをつける。そのURLは「Plagger」というツール(@ITの関連記事)を通して、システム開発部のIRCにも投稿される仕組みになっているのだ。「もともとシックス・アパート(2005年2月4日の関連記事参照)で行っていたそうで、それを聞いて真似しました」という。

 イントラネットにはWikiもある。利用しているWikiエンジンは「Hiki」。Hikiは1つのプログラムでWikiFarmと呼ばれる複数のWikiの集合を簡単に作れるのが特徴で、新しいWikiをすぐに追加できる。モバイルファクトリーでも、プロジェクト単位のハウツーを蓄積するためのもの、議事録用のもの、社員の自己紹介用のものなど、いくつものWikiがずらりと並んでいる。

 Wikiを導入する以前は、Windowsの共有フォルダにテキストファイルを入れて共有し、書き換えていた。しかし、複数の人が同時に編集して、更新分が消えてしまうことが重なり、Wikiを導入することになったという。

システム開発部の席周辺にあるホワイトボード。ちょっとした打ち合わせに利用する。右のミーティングスペースにはおもちゃ類も

ブログ流し読みから“真の流行語”が浮かんでくる

 ブログははてなダイアリーを利用している。「TokuLog 改め Perl を極めて結婚するブログ」で、技術ネタを綴っているのだ。

 書く動機は「自分が何かにハマって抜け出した過程をストックすることです。ほかの人に同じ失敗を繰り返さないでほしいと思うから」。松野さん自身も仕事で発生したエラーメッセージを検索にかけて、同じ問題に先に突き当たった人のブログを見て解決することがよくある。

 RSSリーダーとしてはlivedoor Readerを使い、およそ500程度のブログを登録してある。数が多いので忙しい時は流し読みになってしまうが、流し読みからもその時の“流行語”が浮かんでくる。最近浮かんできた流行語は、Flashをサーバサイドで生成するツール「Flex2」(@ITの紹介記事)という言葉。「このような流れをつかんでおくとあとで役に立つことがあります」

松野さんが普段持ち歩いているものはいたってシンプル。オライリーのカバーをつけたロディアのメモ帳、PHS、財布の3つくらいだという

 「時間がある時にはいつも何か読んでいたい」という松野さんは、カバンの中には常に本を入れている。「自分の本には線を引いたり、ページを折ったり、徹底的に汚すつもりで読みます」。最近読んで面白かったのは「熊とワルツを」というプロジェクト管理の本だ。

 書籍以外にも、ブログよりも長文のエッセイなどが読めるサイトを「時間がある時に読むサイト」と決め、電車の待ち時間などのすきま時間に携帯から読んでいる。たとえば「ハッカーと画家」などの著者であるポール・グレアム氏のエッセイなどだ。彼が新しいエッセイを発表すると、技術者コミュニティ内で誰かが日本語に訳すほどの人気がある。松野さんは「携帯で長文を読むのは、PCから読むよりも集中できる」という。PCではいくつものタブやウィンドウを開いているのが普通なので気が散ってしまうが、携帯では小さな1画面を見るしかないからだと説明する。

 社内でフル活用しているIRCだが、社外の人とのやりとりにも使っている。Perlのすご腕プログラマーが集まる業界内IRCがあり、ブログには書けない話、書こうと思わないほど細かいマニアックな話、笑えるサイト紹介などの雑談ができるという。

 技術者が集まるカンファレンスにも積極的に参加する。時に発表もするが、情報収集として大事なのはその後の飲み会。個人サイトやブログを持っている技術者は多く、そこに多くの情報が出ている。「でも、そのWebサイトをどんな思いで運営しているか、ということは意外と書いていないものです。普段は照れてしまってブログには書けないような、技術者としてのポリシーや倫理感について飲みながら聞けるのが面白い」

 IRCという「枯れた」ツールをフル活用しながらも、ケータイ世代の若者に向けたサービスを構築するモバイルファクトリーで生き生きと働く松野さんはまだ23歳という若さだ。今後の活躍に期待したい。

プロフィール
お名前 松野徳大(まつの・とくひろ)
経歴 高等工業専門学校を卒業後、2005年4月にモバイルファクトリーに入社
PC 会社:Dellのデスクトップ機、自宅:DellのノートPC (Windowsマシン)、ThinkPad(linux、サーバ用)
携帯電話/PDA(データ通信カードを含む) ウィルコム WX310SA
デジタルカメラ 携帯のもの
ブラウザ SleipnirとFirefoxを併用。自宅ではFirefoxをメインで、会社ではSleipnirをWeb巡回に、Firefoxを開発に使用。
収集ツール(RSSリーダーなど) livedoor Readerをメインに、少数のメーリングリストとIRC
メールクライアント 仕事用にはSylpheed。プライベートはGmail
インスタントメッセンジャー MSN MessengerとGoogle Talkを常駐させています。Skypeは重いイメージがあるので立ち上げていません。
ファイル整理ツール(デスクトップ検索を含む) Googleデスクトップサーチを入れています。ファイラーはzsh。
バックアップツール rsync
検索サイト Google、Technorati
Webメール Gmail
ブログ はてなダイアリー、はてなグループ、livedoor ブログ、アメブロ、ヤプログほか多数にアカウントを持っていますが、メインははてなダイアリー「TokuLog 改め Perl を極めて結婚するブログ
SNS mixi、フレパがメイン
ソーシャルブックマーキング livedoor クリップを利用。livedoor Reader との親和性が魅力
Wiki Hikiを社内では利用。Kwikiに移行も考え中
影響を受けた人/本/Webサイト 人:宮川達彦さん、高林哲さん
本:「ライト、ついてますか
サイト:http://search.cpan.org/
座右の銘 Shut the fuck up and write some code.
手帳/ノート ロディアをメモ帳として。ノートは普通のB5ノート
ペン 普通の4色ボールペン
その他小物(ICレコーダ、ポストイットなど) 特になし

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