第3回 相手を説得する──「自分のためタイプ」と「人のためタイプ」平本メソッド 行動の指針

第3回目は、「自分のためタイプ/人のためタイプ」を紹介します。第1回、第2回のタイプ別のアプローチ方法と組み合わせることで、きめ細やかに対応できるようになります。

» 2007年02月28日 12時49分 公開
[平本相武(構成:房野麻子),ITmedia]

平本メソッド 行動の指針
  連載タイトル
1 心の動きに合った会話で相手を説得する
2 相手を説得する──「人の評判タイプ」と「自分の納得タイプ」
3 相手を説得する──「自分のためタイプ」と「人のためタイプ」
4 相手を説得する──「賛成タイプ」と「反対タイプ」
5 相手を説得する──「可能性タイプ」と「必要性タイプ」
6 相手を説得する──「1人でタイプ」と「誰かとタイプ」

 例えばクルマを買うときに、「このクルマを買ったら、どんな良いことがあるか?」と考えて、快を得るために買い求めるタイプが「向かうタイプ」、「クルマを買わなかったらどんなに辛いか?」と考えて買うタイプが「避けるタイプ」ということを第1回で紹介しました。また第2回では、「良さをご存知ですよね?/辛さをご存知ですよね?」と言われて決心する「自分の納得タイプ」と、「みんなが良いって言っていますよ/みんな困るって言っていますよ」と言われて決心する「人の評判タイプ」を紹介しました。

 今回紹介する「自分のためタイプ/人のためタイプ」は、それが誰のためか、で対応を決めるタイプです。「このクルマがあると、どんなにいいですか?」と聞かれて「自分でドライブできて、気持ち良いです」「週末にリフレッシュできます」と答えるのが「自分のためタイプ」です。ほかにも「ショッピングに行くときに楽」「気分転換に使います」「仕事に使います」「営業力が上がります」「売り上げが上がります」などいろいろな理由がありますが、自分が良くなることが基準になるとモチベーションが上がるのが、「自分のためタイプ」です。

 「人のためタイプ」だと、「このクルマがあると、あなたはどんなに快適ですか?」と聞かれてもあまり反応がよくありません。その代わり、「このクルマがあると、ご家族はどうです?」と聞くと、「子供が……」とか「おばあちゃんのためを考えると……」と、ビビッドに反応します。

 中には「会社のために」と思う人もいます。「ウチの課のことを考えると、残業してでもやろうと思うんです」「オレはいいんだけど、ウチのチームのことを考えると……」いう人、いますよね。そういう人は「人のためタイプ」です。

タイプ別のアプローチ方法を組み合わせる

 前回、誌上セミナーで紹介したように、タイプ別のアプローチ方法をどんどん組み合わせてみましょう。例えば、「向かう+自分の納得+人のためタイプ」の人の場合には、「このクルマがあったら、お子さんが週末どんなに楽しいか、私に言われなくてもわかってらっしゃいますよね?」というアプローチ方法になります。

 あるいは、「避ける+自分の納得+人のためタイプ」だったら、「このクルマがないと、おばあちゃんの送り迎えがバスや歩きになっちゃいますよ。おばあさんがどれだけ辛いか、私に言われなくてもご存知ですよね?」という感じです。

 ここでは両方とも、「自分の納得タイプ」にしていますが、「人の評判タイプ」なら、「……と、みんな思いますよ」「……と、みんな言っていますよ」にすればいいので、言いやすいはずです。

 詳しくは、実際にやりながら紹介しましょう。

平本 斎藤さんは、人のため、自分のため、どちらのタイプだと思いますか?

斎藤 どちらかというと、「自分のため」のことが多いんですが、例えば、家を建てましょう、というような話になると、「人のため」になります。

平本 例えば、誰のためですか?

斎藤 子供とか、です。まだいませんが……

平本 じゃあ、将来ですね。子供が家でどんな風に過ごすといいですか?

斎藤 外で遊んで、走り回れるような、そういう環境がいいですね。

平本 では、「ここで、この家を決めなかったとしたら、子供が生まれても、外で全然遊べない……そんな辛い環境になるのを、私に言われなくてもご存知ですよね? 狭い部屋で辛い、わかりますよね?」

斎藤 「辛いですね〜」

平本 「子供が生まれて、外で全然遊べない。ご自身でも、そういう未来を想像されますよね?」

斎藤 「考えますね〜」

平本 「それでも、買わないですか?」

斎藤 「買ったほうがいいですよね」

平本 「あ、斎藤さんはそう思われますか?」

斎藤 「ええ」

ここで、「斎藤さんはそう思われるんですね」と受けてください。「自分の納得タイプ」である斎藤さんに対応する場合、「私もそう思います」ではいけません。

平本 「斎藤さんは、今だと思われるんですか?」

斎藤 「今じゃないですかね」

平本 「そう思いますか。どうして、そう思われますか?」

このように、どんどん自分に言わせてください。そして、お客さんが言ったことに、「あ〜、なるほど〜」といちいち感心してほしいんです。専門的知識を持っているセールスマンからすると、大したことなくても、「さすがですね」と受けてください。

平本 「……さすが、家のない辛さをよくご存知ですね。狭いところで、子供たちが走れない辛さを、よくイメージされてますね」

斎藤 そう言われると、辛いですね。みんなそう感じるんじゃないかと思うんですが。

平本 いや、ピンとこない人もいます。みなそれぞれ、組み合わせのパターンが違うんですよ。ちょっと比べてほしいのですが、「もし、この家を買ったとしたら、子供たちがのびのび走り回れるって、ご存知ですよね」と言われるのと、どちらが買う気になりますか?

斎藤 う〜ん、やっぱり「買わなかったら、外で遊べない」という方がグッとくるかなあ。

平本 避けるタイプなんですね。

斎藤 そうですね。確かに、「買ったら、遊べますよ」というのは弱い感じがします。

平本 特に「自分の納得」がプライベート面では強いみたいですね。では、「子供たちを窮屈なところにやると、かわいそうだと私は思いますよ」と言われたら?

斎藤 「まあ、そりゃ、そうですね」とは思いますよ。

平本 「その辛さを考えると、私はぜひ、これをお薦めしたいんですけど」

斎藤 「まあ、そうですね」……なんだかこれ、セールストークじゃん、と感じちゃうんです。

平本 ところが、こういわれると、「そうですか、本当ですか」と納得して買う人もいるんですよ。例えば、洋服屋さんで、店員の方が「お似合いですよ。それ、ホントにぴったり」って言うと、「そうですか? ホントに!?」と気持ちよくなって買う人が多いじゃないですか。端から見ていると、そうかあ? って思うこともありますけどね(笑)

房野 その「ほめる」接客方法は、デパートで働いていたころ基本として教わりました。

平本 7〜8割の人は、似合うと言われたら、安心してだいたい買いますよね。ところが斎藤さんはこのタイプではないので、「これはセールストークだな」とわかるんですね。でも実は、裏のセールストークをやっている店員もいるはずなんです。

斎藤 そうですね。服を買いに行くと、「それより、こっちの方がいいよ。それちょっと違うんじゃないかな」って言われた方が、真剣に対応してくれているように思っちゃいます。

平本 それは、次回「賛成タイプ/反対タイプ」として紹介します。

斎藤 「自分のため」が強い人の場合は、ストレートに攻めればいいんですか?

平本 そうですね。例えばPCを売る場合に、「向かう+自分のためタイプ」のお客さんには、「このPCがあったら、どんなに便利ですか?」で、「避ける+自分のためタイプ」だったら、「このPCがなかったら、何が困りますか?」です。

 これが「人のためタイプ」のお客さんだと、「このPCがなかったら、部下は/会社の人たちはどんなに困りますか?」となります。「あなたがこのPCを入れたら、部下はどんなに活性化すると思いますか?」と聞くと、「ああ、部下が活性化するんだったら、PCを入れよう」という社長もいますよ。

房野 買うものによっても、違いますね。

平本 そうです。初回で説明した、テーマの大きさや仕事とプライベートでの違いですね。ここで大事なのは、相手のタイプを見分けるというよりは、「ウチが売っているこの商品に対して、この人はどちらに反応しているか」ということを見極めることです。お客さんの反応を、五感を開いて見てほしいですね。


おまけ 気になる人をデートに誘う場合(3)

 例えば、「自分のためタイプ」の人が、「実は、勉強のためにも、あのミュージカルを観に行こうかな、と思っているんだけど」と言ったとします。そのとき「それは観ておいたほうが、絶対、キミのためになるよ」と言ってあげましょう。あるいは、気になる人が、「私、ジェットコースター系の乗り物が好きなの」と言ったとしたら、「じゃあ、ジェットコースターがいっぱいある富士急ハイランドに行ってみようよ」など、相手がしたいということをやってあげましょう。

 一方「人のためタイプ」の人は、どちらかというと世話好きなタイプなので、気になる人がこのタイプの場合、「俺、これがわからないんだよな〜。これを学べるようなもの、何かないかな?」と相談すると「それだったら、○○を観るといいよ。勉強になるよ」と教えてくれるでしょう。そうしたら、「本当? それ、一緒に行ってくれると助かるだけどさあ」というと、「しょうがないなあ〜、じゃあ、一緒に行ってあげるよ」となるかもしれません。あるいは、「オレ、ディズニーシーに行ったことなくてさ、一回、見てみたいんだけどさ、なかなか行く人もいないし、男だけで行くなんて変じゃない。誰か、ディズニーシーに一緒に行ってくれる人、いないかなあ」などというと、「じゃあ、私が」となるのが「人のためタイプ」です。

 「人のためタイプ」は、人のために何かしてあげることが好きなので、してあげようかな、という気持ちになれる話題を持ちかけなくてはいけません。そのためには、これまで紹介したタイプ別アプローチ方法を組み合わせると、成功率が上がります。

 相手が「向かう+自分の納得+人のためタイプ」だったら、「ディズニーランドって、そんなに面白いんだ。行きたいなあ、誰か連れていってくれたらいいなあ」という感じです。あるいは、「向かう+人の評判+人のためタイプ」だったら、「ディズニーランドって、男でも結構楽しめるって、行ったヤツら、みんな言ってるんだよね。連れて行ってほしいなあ。俺のためにさあ、連れてってよ」という感じです。

 これが「避けるタイプ」になると、「今の時期に行っておかないと、アレ、終わっちゃうんだよね?。誰か連れて言ってくれる人、いないかな〜」となります。組み合わせによって、いろいろなバリエーションが出てきますね。


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ピークパフォーマンス 代表取締役

平本相武(ひらもと あきお)

 1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。


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