「Winnyのどこが問題か」を上司に説明する17のポイントビジネスシーンで気になる法律問題(1/2 ページ)

ファイル共有ソフト「Winny」――著作権侵害、開発者の有罪判決、情報漏洩など、ダーティなイメージがある一方、P2P技術自体が違法なわけではなく、また裁判の行方によっては新しい技術開発が萎縮するという問題も抱えている。Biz.IDの読者ならばすでにご存知だろうが、Winnyの問題点を上司に説明するための法的なポイントを2月17日に行われたWinnyシンポジウムをヒントに考えてみた。

» 2007年02月23日 12時00分 公開
[情報ネットワーク法学会, 町村泰貴,ITmedia]

 Winnyを開発した金子勇氏(元東京大学助手)に対しては、2006年末に著作権侵害幇助罪で150万円の罰金を命じる有罪判決が京都地裁から下された(京都地判平成18年12月13日、関連記事)。これを踏まえて、大阪弁護士会と情報処理学会、そして情報ネットワーク法学会の三者が共同シンポジウム「IT技術と刑事事件を考える――Winny事件判決を契機として――」を開き、議論を交わした。

上司から「Winnyってなに?」と聞かれたら

ポイント

  • Winnyは金子勇氏が開発した無償のファイル共有ソフト
  • 中央サーバが不要なP2Pネットワークを構築し、ユーザー間でファイルをやり取りする
  • 送受信されるファイルは暗号化されている
  • ファイルの暗号化と独特なダウンロードの仕組みにより、匿名性が高い

 まずWinnyというのは金子勇氏が作って無償配布したファイル共有ソフトだ。これにはファイル共有機能をメインにするWinny1と、P2Pによる大規模匿名BBSの実現を目指したWinny2とがある。いずれも中央サーバを必要としない純粋型P2Pネットワークを作り上げ、Winnyを起動しているPC同士は、それぞれのアップフォルダにあるファイルの情報を直接交換し、リクエストに応じてダウンロードできる。また「キャッシュ」と呼ばれるフォルダでは、送受信するファイルを暗号化して蓄積。ほかのユーザーがダウンロードできる状態となっている。

 例えば、ファイルをダウンロードすると、そのファイルはダウンロードしたPCのキャッシュフォルダに残る。このファイルはWinnyネットワーク上ではダウンロード元のファイルとまったく同じに見えるため、ファイルが1度ダウンロードされるたびにダウンロードできるファイルが増えていくのだ。

 Winnyネットワークでは、ファイルそのものの情報のほかに、ファイルのアドレス情報を示す「キー」と呼ばれるデータも流通している。このキーが、ファイルの増殖と同時に書き換えられるのである。ダウンロードしたファイルは、ダウンロード後のアドレス情報を記したキーをほかのWinnyノードに送る。キーの書き換えが頻繁に起きれば、元々の流出元を特定するのは困難になる――というわけだ。

「なぜ、情報漏洩が頻発するのか?」と聞かれたら

ポイント

  • Antinnyと呼ばれるウイルスが原因
  • AntinnyはHDD上の任意のファイルを勝手にアップフォルダにコピー、知らないうちにほかのWinnyユーザーがダウンロード可能な状態にする
  • 漏洩したファイルの完全削除は難しい

 Antinnyと呼ばれるウイルスがWinnyネットワークに蔓延した。このウイルスは、Winnyが起動しているPCのHDD上にある任意のファイルを勝手にアップフォルダにコピーし、持ち主が知らないうちにほかのWinnyユーザーがダウンロード可能な状態にする。

 これによって多くの個人情報や営業秘密、あるいは自衛隊や警察などの機密事項を含んだファイルが漏洩し、無数のキャッシュフォルダに蓄積され、Winnyネットワークを漂うことになった。一度、漏洩してしまうとファイルはどんどん増殖するため、完全に削除するのが難しい。この情報漏洩の深刻さは、内閣官房の情報セキュリティセンターが「Winnyの使用は危険!」という緊急アピールを出すまでに至っている(2006年3月の記事参照)。

「Winnyはどれくらい危険なソフトなの?」と聞かれたら

ポイント

  • 情報漏洩した場合、Winnyネットワークがなくならない限り被害が続く
  • 自分のPCにどんなファイルがキャッシュされているかも分からない
  • ダウンロードも違法とするような立法につながる可能性

 2月17日のシンポジウムで高木浩光氏(産業技術総合研究所主任研究員)は、Winnyの危険性を強調する。Winnyネットワークがなくならない限り、そこにアップされたファイルはいつまでもネット上で入手可能なためだ。それが秘密情報であったり、センシティブなプライバシー情報であったりすれば、被害者はいつまでも被害を受け続けるのである。

 個々のユーザーのキャッシュフォルダ(高木氏はこれをキャッシュと呼ぶことにも異論を唱える)に入っているファイルは暗号化され、そのPC所有者もどんなファイルが自分のPCに入っているか分からない。そしてウイルスを完全に防御したり、流出したら困るファイルを絶対にHDDに記録しないことは事実上不可能なのだから、スキルの高い人がどんなに気を付けていても、秘密情報を完全に流出させないことはできない。いったん流出したら、これを削除することは誰にもできないので、極めて危険なネットワークだというわけだ。

 高木氏の指摘は、金子氏の刑事責任とは別の問題だ。またWinnyがその後のP2Pソフト開発の基盤となったという点で有益な存在であったことも認める。その上で、よりコントロール可能なファイル共有ソフトやP2Pネットワークの普及が望ましいという。さもないと、現在は著作権侵害物かどうかに関わらずダウンロードすることは適法に行えるが、著作権侵害物のダウンロードも違法とするような立法につながる可能性があるという。

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