管理を完璧にしようとすればするほど、プロジェクトは失敗するデジタルワークスタイルの視点

「計画」「やる気」「変化」のプロジェクト失敗“3大要素”は完璧に管理できるのか――。“完璧な”プロジェクト管理を想定してみよう。

» 2007年02月21日 12時10分 公開
[徳力基彦,ITmedia]

 ほとんどのプロジェクトの失敗要因は、「計画」「やる気」「変化」という3つの要素です(2月14日の記事参照)。では皆さんは、これらの3つの失敗要因を発生させないようにできるでしょうか。

 ここで単純にプロジェクト「管理」の立場で考えると、答えは一見簡単です。

  • 事前の「計画」を完璧にプランニングする
  • プロジェクトの「変化」を完璧に排除する
  • メンバーの「やる気」を完璧に把握する

 でも、本当にそうでしょうか? 私たちが直面しているのは、前回も書いたように、毎回“初体験”のようなプロジェクトで、正確な「計画」を立てるのが不可能に近く、「メンバー」の作業効率も把握しにくい上に、プロジェクトに変更や変化が頻繁に発生する――そんなプロジェクトなのです。

 逆説的ではありますが、3つの失敗要因を完璧に管理しようとしたらどうなるのか。一度、考えて見ましょう。

事前の「計画」を完璧にプランニングできるのか?

 もし、プロジェクトの計画を事前に完璧にプランニングしろといわれたら、あなたならどうするでしょうか。後で失敗しないために、完璧なプロジェクトの計画を要求されているのです。当然、それぞれの作業について、正確な見積もりが必要になります。自分で分かる作業なら大体の見積もりは出せるかもしれませんが、これまでやったことのない作業だったらどうでしょう。

 見積もりができそうな人に聞いて回って、何とか正確な見積もりを出そうとするかもしれません。でも、他のメンバーに作業時間を聞いたところで、その作業の経験者と未経験者では、実際の作業時間には大きな開きが出ます。結局、最後は想像で算出するしかないわけです。

 未経験ゆえの先行き不透明感もあるでしょう。不安のあまり、見積もりの作業時間を多めに水増ししがちです。その水増しによって、そもそもプロジェクトの受注を逃してしまったり、不必要な予算や人材を抱え込む懸念もあります。

メンバーの「やる気」を完璧に把握できるのか?

 次に、プロジェクトメンバーのやる気や進捗状況を完璧に把握しろといわれたら、あなたならどうしますか。事前に立てた完璧な計画を実行するためには、当然メンバーにも計画に沿った完璧な作業が要求されます。あなたは、各メンバーが作業を計画通りに進めているかどうか、進捗具合を毎日管理するかもしれません。

 あるメンバーの作業が遅れていることが分かったら――。たいていの人は、そのメンバーを勇気付けて遅れを取り戻すように支援するでしょう。ですが、その作業が遅れているのは、そのメンバーがやる気のないせいなのか考える必要がありそうです。メンバーの能力や、作業の見積もりが甘かったということは、立案した計画が間違っていた可能性もあるでしょう。

 また、メンバーの進捗状況を本当に理解できるのかどうかも問題です。自分の専門とは畑違いのプログラマーやデザイナーの進捗状況を、その人の仕事振りを見て本当に把握できるのかどうか疑問が残ります。たとえ、メンバーが「大丈夫です」と答えたとしてもどうやって判断すればいいのでしょうか。

 一方、メンバーが信用できなくなって作業内容にしょっちゅう口を出していては、本当にやる気がなくなってしまうでしょう。それでもあなたは、メンバーのやる気や進捗を完璧に把握できる――といえるのでしょうか。

プロジェクトの「変化」を完璧に排除する

 さらに、プロジェクトの「変化」の影響を完璧に排除しろといわれたらどうしますか。当然、事前の計画が完璧であればあるほど、変化の許容度は少なくなります。事前に予測できる程度の変化であれば、メンバーみんなでがんばってカバーすることができるかもしれません。

 とはいえ現実には、努力や根性でカバーできない変化が起こってしまうこともあります。プロジェクトの最中に、顧客に当初予定していた以外の仕事を依頼されたときに、「いまさら変えることはできません」と真っ向から断ることは難しいでしょう。新サービスのプロジェクトの最中に、ライバル企業が類似のサービスを発表してしまった時にも、当初の計画を守ることは適切な選択といえるのでしょうか。状況が変化しているのに当初の計画を守ることに意味があるとはいえません。

プロジェクト管理を完璧にすることは不可能!?

 以上、ちょっと回りくどい書き方になってしまいましたが、変化の激しいプロジェクトを完璧に管理することがいかに難しいか、分かってもらえたのではないかと思います。しかも、3つの要素は密接につながっています。プロジェクトの最初の計画を守ろうとすればするほど、変化に対応できなくなり、結果的にメンバーに負担が行くことになります。

 メンバーが負担をカバーできるうちはいいですが、徹夜や休日出勤を繰り返して、メンバーが倒れてしまったり、会社に来なくなってしまったら、それこそ大きな“変化”です。つまり、3つの要素のどれか1つでもバランスを崩せば、簡単にプロジェクト全体が失敗してしまう――というわけです。

 ではどうしたいいのでしょう。実はプロジェクトを成功させるための第一歩は、プロジェクトを完璧に管理して計画通り実施するのは不可能だと知ることなのです。「なんだそれだけか」と思いますよね。ですが、実際には非常に多くのプロジェクトが、事前の計画を死守しようとすることに集中するあまり、上記にあるような失敗のスパイラルにはまってしまっているのです。

 まずは、変化の激しいプロジェクトの「完璧な管理」は不可能、ということを忘れないようにしてください。それだけでも、少しは気が楽になるはずです。

 実際には、プロジェクトを計画通り実行するように管理することは不可能でも、プロジェクトは成功させなければいけません。そこで、次回は、変化の激しいプロジェクトで、プロジェクトを成功させるためのポイントを考えてみたいと思います。

筆者プロフィール 徳力基彦(とくりき・もとひこ)

NTT、ITコンサルを経て、現在はアリエル・ネットワーク株式会社プロダクト・マネジメント室マネージャ。ビジネスパーソンの生産性向上のためのソフトウェアの企画・開発やコンサルティング業務に従事するほか、グループウェアやブログ、仕事術などに関する執筆・講演活動を行っている。ブログは「ワークスタイル・メモ」と「tokuriki.com


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