イノベーションに“4つの壁”――Googleは「B」、Appleは「C」!?ソフトウェアジャパン2007

Googleのようにギークを驚かせるような技術だけでなく、トヨタの「カイゼン」だってイノベーションだ――。イノベーティブ社会基盤フォーラムによれば、イノベーションには“4つの壁”があるのだという。

» 2007年01月25日 19時47分 公開
[鷹木創,ITmedia]

 Googleは「B」、Appleは「C」――。一体何のことやら分からない読者も多いだろう。実はこれ、各社のイノベーションの違いを表したものだ。1月25日、都内で開催された情報処理学会のイベント「ソフトウェアジャパン2007」で、同学会のイノベーティブ社会基盤フォーラム(ISIF)が研究成果を発表した。

イベントではインターネット上のチャットサービスを利用して、参加者からの積極的な関与も求めた。壇上両サイドのモニターにチャットの議論を表示。チャットログはこちら

組織力で盛り上がる「B」、カリスマ経営者がリーダーシップを発揮する「C」

 冒頭の「B」「C」というのは、横軸に成長市場から成熟市場への時間軸、縦軸に個人から組織への発展軸を設定し、4つのエリアに分かれた「イノベーションマップ」が元になっている。個人でビジネスを始めた段階をスタート地点だとすると、4つに分かれたイノベーションマップでは左下の「A」に当たる。目指すゴールは、組織力も充実し、安定持続成長が見込める右上の「D」だ。

 Dに至るシナリオは2つ。組織力で盛り上がる「B」か、カリスマ経営者が強力なリーダーシップを発揮する「C」か――である。AからB/Cに、B/CからDの間にそれぞれ“壁”があるのだ。

イノベーションには“4つの壁”があるという

 ISIFに参加する許斐俊充氏(日本ナショナルインスツルメンツ戦略マーケティングマネージャ)は、「AからBの段階に移行するにはスピードが肝心だ」と強調する。急速に立ち上がる市場を引っ張るには優秀な人材を大量に採用し、組織化する必要がある。例えば、1人のエンジニアが脚光を浴びるというより、優秀なエンジニアたちが開発したサービスの質と量でほかを圧倒するGoogleのイメージだ。

 一方、AからCへの道には「天才が必要」だという。スティーブ・ジョブス率いるAppleがその代表例だ。ただ、当然のことながら天才は探そうとしても簡単に見つけられるものではない。許斐氏も「天才を見つけるための採用活動は、なかなか不毛なことだったりする」と苦笑する。

 最終的なゴールである安定した成長が見込める段階「D」に進むにも、やはりBからの移行が比較的簡単といえそうだ。組織力が充実すれば、1人の天才に頼らなくとも定期的に革新的な技術を生み出せる。イノベーションを繰り返し再現できる――というわけだ。逆にCからDに進むには、天才カリスマ経営者の知見を組織にどれだけフィードバックできるかにかかってくる。

 ビル・ゲイツ氏のサクセスストーリーが強調されるマイクロソフトだが、ゲイツ氏が開発したコンピュータ言語「BASIC」以降もMS-DOS、Windowsと、組織的にかつ繰り返しイノベーションを続けてきた。こうしてDの段階に達したのがマイクロソフトなのだという。

日本ナショナルインスツルメンツの許斐氏

はてなはイノベーションマップのどこにいるのか?

 日本の企業はどの象限にマッピングされるのか。ISIFではイベントに先駆けて、独自に“イノベーションのための7つの質問”を作成。はてなをはじめ、有名百貨店やゲームメーカーなど17社の経営陣に問うた。

イノベーションのための7つの質問
No. 質問
1 仕事の成果が革新的であることが評価基準となっているか?
2 成否よりも実行したか否かのほうが評価されるか?
3 仕事のやり方を定期的に評価し、見直しているか?
4 過去の成功や失敗が参照可能な状態で蓄積されているか?
5 イノベーションを生み出すためのリソース(人材・予算・時間)が確保されているか?
6 そのリソースの使い方を決めるためのプロセスが明文化されているか?
7 人が集まってフラットなコミュニケーションがとれる場所がオフィスとオンラインの両方にあるか?

 この質問全てにイエスであれば7ポイントとなり、イノベーションマップのDエリアにマッピングされるという。ちなみにはてななどの国内各社は、ほとんど創業段階の「A」に収まった。ただし、この質問自体は、ISTFで議論を重ねて作成したもので必ずしも学問的な裏付けのあるものではない。今後、イベント参加者や外部識者の意見も組み入れて改善していく方針だ。

研究途中の質問項目だが、国内各社のほとんどはまだ創業段階の「A」。グレーの文字のGoogle、mixi、Appleからは回答を得られなかったという

 回答が割れたのは、問2の「成否よりも実行を評価」と、問6の「リソースの使い方を明文化」だ。問2では「入社時に実行のほうが重要だと言われた」(マイクロソフト)、「イエス。全社的にそうですね」(ゲームメーカー)との回答があった一方、必ずしもそうではないという回答も目立った。例えばはてなでは、「ただ生み出すことはできます。実行することもできます。問題はそれがおもしろいもので、熱意を持って継続できるかどうかです」と回答。このほかも、「実行してかつ成功しなければ評価されない」(百貨店)、「No, results are more important than actual execution.(実行よりも結果が重要だ)」(SixApart)など日米を問わず反対意見があった。

 問6でも「プロセスは明文化されている」(マイクロソフト)との回答がある一方、「自主性に任せています」(はてな)などと回答が割れた。

はてな
SixApart
ナショナルインスツルメンツ

百貨店
コミュニティエンジン
東京大学古澤研究室

8割がアイデアを議論する時間――だからこそコミュニケーションが重要

 ISIFの楠正憲氏(マイクロソフト最高技術責任者補佐)は、“7つの質問”が企業の評価軸になれば、企業内で革新的なアイデアを持っている個人をエンパワーできるという。「(7つの質問を見て)当たり前のことをチェックする。刺激を受けてほしい」(許斐氏)のだ。

 パネリストとして参加したコミュニティエンジンの中嶋謙互氏(代表取締役CEO)は、「イノベーションを爆発させるためには何が必要か」を考えている。「Web 2.0の会社では8割がアイデアを議論する時間で、残り2割がコーディング」だからか、コミュニケーションが重要だという。実際にも「Face to faceのコミュニケーションを増やした」。イノベーティブなスタッフの意見を組織として引き出すために、ネットワーク上だけでなく現実でのコミュニケーションも大事――というわけだ。

マイクロソフトの楠氏。「イノベーティブな人をエンパワーしたい」という
コミュニティエンジンの中嶋氏は「Face to faceのコミュニケーションを増やした」という

 「とにかく実行」か「結果が大事」か――どちらの選択肢が優れているのかは、企業が激しい競争環境にあるのか、それとも収益を大事にしているのかなど、経営環境によっても異なる。その意味で、この“7つの質問”は発展途上にあるといっていい。とはいえ、問7「人が集まってフラットなコミュニケーションがとれる場所がオフィスとオンラインの両方にあるか」は、イノベーションという“出る杭”を育てるためにも一考する価値がありそうだ。

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