劉邦に学ぶ時間の“補給路”確保戦術【解決編】シゴトハック研究所

その日使える時間の目一杯まで仕事を入れようとしていませんか。それでは時間の“補給路”が伸びきってしまいます。

» 2006年11月17日 00時33分 公開
[大橋悦夫,ITmedia]

今回の課題:時間が足りない状況をスケジューリングの妙で乗り切るには

 コツ:いかなる場合でも“時間補給路”を確保しておく


 前回は、自分にとって「予想外」のリマインダーを仕掛けることによって、過去の自分からの“応援メッセージ”をテコにやる気を呼び起こすという方法をご紹介しました。今回もまた「予想外」を活用するのですが、主に時間感覚に注目します。

 朝の段階で、その日にやるべきタスクを書き出してみたものの、到底その日のうちに終えられそうもないことが目に見えてしまうと、もうそれだけでやる気がなくなってしまうものです。一日の中で作業に使える時間は限られています。これを一日の“時間予算”と考えると、やるべき個々のタスクごとに割り振った見積もり時間の合計が、予算を超えている状態、ということになります。

 予算内であっても、目一杯までタスクを割り当ててしまうと、余裕が全くなくなるため、何か1つでも作業が遅れたり、飛び込み案件が入ってきたりするだけで、たちまち破綻してしまうでしょう。

 そこで、ある程度の余裕を見込んで予算割り当てをすることになります。

 【問題編】では、劣勢の劉邦が項羽に打ち勝つことができたのは、補給路を確保していたため、という話が出てきましたが、時間管理についても補給路にヒントがあります。

時間の“補給路”とは?

 1日の時間予算は、総体として捉えるにはサイズが大きすぎますので、いくつかのセクションに分けて考えます。例えば、以下のような分け方です。

  1. 8:00〜 9:00(1時間)
  2. 9:00〜12:00(3時間)
  3. 12:00〜15:00(2時間)※昼休みを除く
  4. 15:00〜18:00(3時間)
  5. 18:00〜21:00(3時間)

 以上、5つのセクションに分けましたが、コアとなるのは、9:00〜18:00の3つのセクションです。早朝のセクション(1)と残業のセクション(5)がありますが、このセクションは予算外のため、原則としてタスクを割り当てないようにします。

 そうなると全体予算は8時間です。先に書いたように、この8時間は予算ではありますが、すべてを引き当ててしまうと詰まってしまいますので、余裕を盛り込むようにします。

 戦争において補給は欠かせないものですが、特に重要になるのは自軍が遠征をした場合です。最前線で戦っている部隊に対して、食料や物資、あるいは兵員の補給を途切れさせないようにすることが補給部隊に求められるミッションですが、前線が自軍領地から離れるほど、このミッションは困難になります。

 戦争を扱った小説などで「伸びきった補給路」という表現をよく見かけますが、8時間という予算いっぱいに予定を盛り込んだ状態がまさにこれです。

補給路の確保を念頭に置いたスケジューリング

 時間管理におけるバッファ時間は、この補給活動になぞらえることができます。午前中のうちは作業が大幅に遅れることは少ないため、バッファ時間が少なくても済むでしょう。それが午後になり、そして夕方を迎える頃には、次第に飛び込み作業や予想外の遅れなどにより、“補給路”が伸びている、ということが多いのではないでしょうか。

 補給路が伸びてしまってから手を打つのは大変なので、各時間セクションの中で吸収するようにします。後半のセクションになるほどに“補給”の必要性が高まりますので、例えば、以下のようにセクションごとのバッファ時間を設定しておきます。

時間帯      バッファ見込み               
9:00〜12:00 バッファ15分 → 実質2.75時間
12:00〜15:00 バッファ30分 → 実質1.50時間
15:00〜18:00 バッファ45分 → 実質2.25時間

 こうすると、実質的に時間予算として割り当て可能なのは7時間ということになります。8時間の予算のうち1時間がバッファ時間として確保されるわけです。

 もし、午前中の段階で30分の遅れが発生した場合は、予め確保しておいた15分に加えて、午後の30分から15分を切り出して、午前中で遅れを取り戻すようにします。もちろん、昼休み1時間のうちの15分を充てることで、午後のバッファ30分を温存することもできます。

 ただし、上記は定時(18:00)にきっちりと仕事を終えることを想定していますので、もともと残業しないと終わらないくらいの仕事がある場合には現実的なプランにはなりません。そこで、18:00〜21:00のセクションを起用します。ただし、このセクションについてもバッファとして45分もしくは1時間を確保しておくようにします。

 一見すると、時間があるのにそれを目一杯使わないのは何となく損をしているような気になりますが、実際に仕事をしてみると、予定通りに進むことは(残念ながら)めったにないことです。あらかじめこれを織り込んだスケジュールを立てておくことで、じりじりと遅れていく際に感じるストレスを軽減する効果が期待できます。

 もちろん、予定通り終えられれば、その分だけ退社時刻が前倒しになるわけですから、仮にすべてのセクションでバッファ時間を使わずに終えられれば、余った時間は翌日の仕事を先行して進めるなど、前倒し仕事術を実践することにつながります。

 ちなみに、劉邦の下で補給を指揮していたのは丞相の蕭何(しょうか)という人物で、彼は戦後の論功行賞では最大の功労者とされていたようです。

 バッファを持たずに一日の仕事に取りかかるのは、補給路を確保せずに戦いに挑むようなものといえるでしょう。

筆者:大橋悦夫

仕事を楽しくする研究日誌「シゴタノ!」管理人。日々の仕事を楽しくするためのヒントやアイデアを毎日紹介するほか「言葉にこだわるエンジニア」をモットーに、Webサイト構築・運営、システム企画・開発、各種執筆・セミナーなど幅広く活動中。近著に『「手帳ブログ」のススメ』(翔泳社)がある。


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