話題のニュースをデータから読み解く(2):検索数編デジタルワークスタイルの視点

「LOHAS」は全世界的に流行しているのか。本当は日本などアジアの一部で流行しているだけなのではないか――。ニュースをデータから読み解く技術の第2弾は、検索データの活用法をご紹介する。

» 2006年09月20日 12時38分 公開
[徳力基彦,ITmedia]

 前回、話題のニュースの裏をとる技術の1つとして、アクセス数を「Alexa」でチェックする方法をご紹介しました(9月13日の記事参照)。ただ、前回ご紹介したように、Alexaはそのデータの取得方法の影響もあり、一定の偏りが存在するのも事実です。

 そこで今回は、ネット利用者なら誰もが利用している検索エンジンでどれだけ検索されたか――、すなわち検索回数のデータを活用する方法をご紹介したいと思います。

検索されている回数をチェック

 検索回数を知る上で、便利なサービスがGoogleが公開している「Google Trends」というサービスです(5月11日の記事参照)。こちらもAlexaと同様に英語のサービスですが、基本的な使い方は簡単なのでご紹介しましょう。

Google Trends

 まず、Alexaとの違いです。Alexaでは、サイトの訪問者数やページビューなどサイトへのアクセスのデータが確認できましたが、Google Trendsではある検索キーワードの検索回数が確認できます。検索回数のデータを分析することで「○○について知りたい」「○○のサイトへ行きたい」といった利用者の動向がある程度わかるのです。

 例えば「mixi」で検索した場合、Alexaのグラフと違い着実に伸びているのがわかります。

上がGoogle Trendsによるグラフ。下がAlexaで表示したグラフ

 また、「livedoor」の場合では、livedoorはmixiよりもGoogleでの検索回数が少ないことがわかりました。

A、B、C、D、E、Fというアルファベットはニュースがあったことを示す

 検索回数のグラフ下部に表示されているグラフを見てください。これはニュースサイトでその単語が言及された回数のグラフです(注:現在のところは日本語のニュースサイトには対応していないようです)。

 また、グラフ中のA、Bのようにグラフ上に関連するニュース記事が掲載されており、そのタイミングで検索数がピークだったことがわかると思います。このAのタイミングはライブドアによるニッポン放送買収騒動(2005年2月8日の記事参照)で、Bのタイミングは堀江氏逮捕などのライブドアショックのころです(1月23日の記事参照)。

 つまり、イベント発生のタイミングで、検索数やニュースの数ともに増加しているのがグラフから読み取れるわけです。

下部のグラフ(赤枠)ではニュースサイトでの言及数がわかる。緑枠は言及しているニュースサイト

言葉のブレからニュースの影響を見る――「Winny」と「ウィニー」の差

 Google Trendsを使う上でお勧めなのは、英語と日本語の表記や、表現のブレを上手く活用して、ニュースの影響を見る方法です。典型的な例は、情報漏えいウイルスで大いに話題になったファイル共有ソフト「Winny」です。

 下の画像はGoogle Trendsで、「Winny」で検索した場合です。

 Winnyの話題のピークは2004年のWinny開発者逮捕のタイミングであり、実際その後は検索をする人が減っていた――という事実がわかります。この傾向は、2006年に入ってからWinnyのニュース記事が極端に増えてもあまり変わりませんでした。

 今度は「ウィニー」で検索してみましょう

 一目瞭然ですが、まったく異なるグラフになります。ちなみに、「ウィニー」のピークは安倍晋三官房長官(当時)による「Winnyを使わないで」発言(3月15日の記事参照)のタイミングです。

 「ウィニー」という表記はテレビ局や大手新聞社などで使われていました。つまり、報道以前から「Winny」という言葉を検索エンジンで使っていたユーザーと、テレビ報道などで「ウィニー」を知ったユーザーとではまったく異なる検索行動をしていた――といえるでしょう。

言葉のブレを比較したり、合計したり

 Google Trendsでは「,」をキーワードの間に挟むことで、複数のグラフを一度に表示することも可能です。たとえば、「ミクシィ,ミクシー,ミクシ」で検索すると、「ミクシー」で検索している人が多いこともわかります。また「ミクシ」で検索している人も若干ですが増えているようです。

 さらにキーワードの間に「|」を入れることにより、各キーワードの検索数を合計したグラフを作成することも可能です。

 先ほどのmixiの例で見てみましょう。「ミクシィ,ミクシー,ミクシ」と「ミクシィ|ミクシー|ミクシ」で検索してみます。

 「ミクシィ」のグラフと合計のグラフの開きから、最近は「ミクシー」による検索が急増していることがわかります。検索数はアクセス数のようなサイト側のデータではなく、探す行為という利用者側のデータですから、上手に使えば利用者側の動向を把握できるわけです。

米国発祥の「LOHAS」、実は日本などアジア諸国からの検索がほとんど!?

 Google Trendsはワールドワイドのデータを利用していますから、国や地域別の検索回数の傾向を見ることもできます。

 たとえばGoogleが提供しているSNSのOrkutは、ブラジルで人気が高いという記事があります(6月20日の記事参照)。Google TrendsでOrkutを検索してみると、実際にブラジルの占める割合が非常に高いのがわかります。

Orkutを検索すると、実際にブラジルの占める割合が高いのがわかる

 最後にもう1つ。最近話題になっている「LOHAS」の例をご紹介しましょう。LOHASというのは1998年に米国の学者が新しい生き方として提唱したのが始まりだそうですから、米国で人気になったものが日本に入ってきたのかという印象を受けます。

 しかし、Google Trendsで検索してみると、RegionsやLanguageのデータを見る限り、「LOHAS」を検索しているのは日本や韓国、台湾などアジアがほとんど――ということがわかりました。しかも、日本では2005年第2四半期から検索回数が増加しています。

「LOHAS」を検索しているのは日本や韓国、台湾などアジアがほとんど
日本では2005年第2四半期から検索回数が増加しています

 Wikipediaによると、日本でLOHASが話題になったのは月刊誌「ソトコト」が2004年4月号で「ロハス特集」を組んでからのようです。1998年に米国で提唱されたLOHASが、2005年の日本の検索数データに現われるようになったということは、自然発生的というよりは「やはりソトコトの地道な活動のおかげなのかも……」ということが見えてきたりするわけです。

 なお、日本において主流の検索エンジンはYahoo! JAPANですから、Googleのデータだけでは偏りが出るのではないかという懸念もあります。また、検索回数がある程度多いキーワードでないとグラフは表示されませんので、出たばかりの新製品や、小規模なサービスのリサーチには向いていません。ただ、その点さえ踏まえて活用すれば、これほど有用なデータはないと思いますので、いろいろと活用するといいでしょう。次回は、クチコミデータでニュースを読み解く技術をご紹介します

筆者プロフィール 徳力基彦(とくりき・もとひこ)

NTT、ITコンサルを経て、現在はアリエル・ネットワーク株式会社プロダクト・マネジメント室マネージャ。ビジネスパーソンの生産性向上のためのソフトウェアの企画・開発やコンサルティング業務に従事するほか、グループウェアやブログ、仕事術などに関する執筆・講演活動を行っている。ブログは「ワークスタイル・メモ」と「tokuriki.com


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