「明日できることは今日やるな」2ちゃんねる管理人・西村博之さん達人の仕事術

最近では1日1億5000万前後のPVを誇る巨大掲示板「2ちゃんねる」。その管理人・ひろゆきさんの知られざる仕事術に迫る。

» 2006年07月07日 20時28分 公開
[鷹木創ITmedia]

 影響を受けた本は、戦国時代末期の剣豪・宮本武蔵の「五輪書」だという西村博之さん。最近では2ちゃんねるの管理人だけでなく、携帯電話向けサービス「ニワンゴ」の取締役“管理人”も務めるようになった。ビジネスパーソン・西村博之の仕事術はいったいどういうものなのだろうか。

奥義「各個撃破」で仕事に対処

2ちゃんねるの西村さん。夜の新宿でインタビューに応じてくれた

 最近、五輪書を読んで多忙な時の対処法を学んだ。「5人を相手にした戦いも、1人の敵との戦いも基本的に変わらない」ことがわかったという。つまり、時間を細かく区切れば、5人の刃が同時に当たることはない。極端に言えば5人と対峙していても1対1の戦いに持ち込めるというものだ。

 大量の仕事を時間差で各個撃破することによって、後に回せるものは極限まで後に回す――、すなわち「明日できることは今日やるな」という西村さんの座右の銘にもつながる。

 最近は2ちゃんねる以外の仕事も増えつつある。「2ちゃんねる検索」などを開発する未来検索ブラジルやニワンゴでも重要な役割を担うようになった。仕事は増えたが自然体なのが西村氏のスタイルでもある。

 「特に何かの仕事を優先的にやるってわけではなくて、作業が発生したら逐次処理します」。まさに五輪書にある時間差による各個撃破を実行するワケだ。「後は、やりたいことがあれば、それから処理していきます。個人的な作業がニワンゴに生きたりしますから」

 自分が使いたいサービスを開発してきた。2ちゃんねるが生まれた1999年当時、「あめぞう掲示板」がサーバ負荷で閲覧できない期間が続いた。「みんなの意見がわかる掲示板のシステムが気に入ってましたので、あめぞうにアクセスできないなら、自分が作ればいい」と思った。

 最近では、ソーシャルブックマーク「Flog」を作った。「自分で面白いサイトを探すのが面倒くさかった」のが直接的なモチベーション。Flogユーザーが増えれば、面白いサイトが上位に表示され、西村さんがわざわざ面白いサイトを探す手間も省ける。「自分が使う以外の理由で開発したことはないかもしれませんね」

 Flogは、「登録ユーザーじゃなくてもブックマークを登録できる」こと――、つまり、ログインしなくても登録できることが特徴だ。「いかんせん作りっぱなしなんです。まだβ版なのですが、できた! やった! の後は放置しっぱなしなんです」と笑った。

 ブログにも興味がある。これまではlivedoor Blogで「元祖しゃちょう日記」を運営していたが、「livedoor Blogのスパムが多いので自分で作っちゃおうかと思っています」。7月に入って、自作のブログシステムに移転を決めた。

“荒れる”ブログにどう対応する!?

 2ちゃんねるやブログ、SNS(ソーシャルネットワークサービス)のようなCGM(Consumer Generated Media)はどんどん増えている。これまでのメディアと異なり、互いの意見交換が容易なのが特徴だ。特にSNSは、比較的素性が明らかな人同士で情報を発信しあうため、結びつきが強まりやすい。

 「ほかの人とつながるのが好きな人がいる一方で、赤の他人とはつながりたくないと考える人たちもいます」というのが西村さんの基本的な考え。

 「今日、こんなもの食べました。どこかに行きたい。ここで遊んだ」といった、日常のたわいない会話はSNSに向いているという。反対に「次期の総理大臣は誰が適しているか」などの重たい話題は「つながりがある人同士で話していると、むしろ気持ち悪くないですか」

 コメント欄が“荒れる”ブログは、コメントにどう対処するべきか。そもそも“荒らし”と呼ばれる行為は掲示板独特の表現だった。ブログが“炎上”した場合、西村さんはどうするのか。

 一般的には「コメント欄を閉じればいいんじゃないんですか」とあっさり答える。しかし、自身が運営するブログ「元祖しゃちょう日記」ではコメントが殺到してもコメント欄を閉じなかった。「コメント数が増えるだけで実害はないですから。気にする人はブログに向いていないんじゃないんですかね」

 炎上するといえば、2ちゃんねるでも以前は、多数の企業から管理人である西村さんに削除依頼の問い合わせが頻繁にあった。そうした削除依頼が、近ごろ減少しているという。

 「中小企業の社長さんから思いついたような問い合わせは続いていますが、大企業からのクレームは少なくなってきました」。これは、西村さんに削除依頼し、一度は2ちゃんねる上の記事を削除したとしても、再び書かれてしまうケースが多いためだ。

 「企業の担当者が上司に削除依頼することの許可を得て、一時的ではあるものの『対処しました』『消しました』となりますが、『また書かれてしまいました』では、許可した上司の責任はどうなるんでしょうか」。そうなると企業としては、2ちゃんねるに削除依頼するというコストをかけて回収できたものは何なのか――、ということに気づき始めたのだという。

 「企業からすると、盛り上がっている話題は気になりますが、そういう場合は、放置するのが一番です。そういう話題を書いているのはたいてい社内の人や取引先などの関係者ですね。盛り上がるケースは、非公開のネタが書かれていることが多いですから。訴訟に踏み切ったりすると、まだ火種が増えます。“燃料”を増やしても企業側にメリットはないでしょうね」

 西村さんのブログにも父親の電話番号が書かれた事があった。

 「問題があれば、(ブログサービス提供会社の)ライブドアが削除するんじゃないですか。嫌がらせをする人の対処に時間を割いたら、嫌がらせをする人たちの思い通りになってしまいます。ブログが仕事に直結している人はともかく、それ以外の人は放置しておいても死にはしないじゃないですか」

嫌がらせはとにかく放置するという

2ちゃんねるブラウザは使わない

 ツールはシンプルに使う方だ。携帯電話は、テレビの地上アナログ放送を受信できるボーダフォン端末「V402SH」を利用しているが、ほとんど見ていない。この端末にはメガピクセルのカメラも備わっているが、こちらもほとんど使っていないという。

 Webブラウザはタブブラウザの「Sleipnir」を使っている。「閉じたときの設定がそのまま残るのが良い」。とはいえ、タブブラウザとなるInternet Explorer 7が使いやすかったら乗り換えてもいい。「ほかのブラウザが乗り換えるに値するほどの機能があれば乗り換えますよ」と柔軟な姿勢を見せる。

 いわゆる、2ちゃんねるブラウザは使わない。「一般の人がInternet Explorerを使っていますので、同じエンジンのSleipnirを使っています。2ちゃんブラウザを使っていてはユーザーからのクレームに対応できないこともありますから」

 なお、RSSリーダーは「起動してチェックすることが面倒くさい」ことが理由で使用していない。Sleipnirのリンクバーにお気に入りのWebサイトを登録して使っている。「Yahoo! JAPAN」「Gmail」「ニュー速」「ニュー速+」「gooメール」「Flog」「BBニュース」「2ちゃんねる板リスト」「ニワンゴ日記」などを登録しているという。

 メールクライアントは「Becky!」。その昔、Outlook Expressを使っていたこともあったが「設定を間違えて動かなくなりました」。それ以降はBecky!一筋だという。

 Webメールの利用方法は特徴的だ。利用しているサービスは「Gmail」。2ちゃんねるで受信したメールをGmailに転送し、Gmailの強力なスパムフィルタ機能を活用して、スパムメールを選別する。1日に1万通を超えるメールに対処するため、大容量であることも重要だ。

 基本的な仕事のやり取りは全部メールだ。ファイルは深い階層に置かない。階層構造は基本的にはマイドキュメントに、スクリプト用、会社使用するファイル用、ネットで拾った動画用のフォルダを用意し、そこにざっくり振り分ける。Googleデスクトップなどのデスクトップ検索も使用しない。

 「なかったらなかったでいいんです。探せば見つかるんでしょうけど、別に探さなくてもなかったことにしちゃえと」と冗談交じりに語った。

「なかったらなかったでいいんです。探せば見つかるんでしょうけど、別に探さなくてもなかったことにしちゃえと」と冗談交じりに語った

ゲームをやりたい時は1週間でもやり続ける

 手帳は5年くらい持ち歩いていない。社会人は手帳を持つものだと思った時期もあり、実際に持ち歩いていた時期もあった。「書くのに夢中で、その後見返すことはなかったですね(笑)スケジュール管理に使っていた時期もあったけど、最近は携帯になりました」

 空いている時間は、書籍を読むかテレビを見る。特に、ディスカバリーチャンネルかスターチャンネルは、いつも付けっぱなしで“ながら見”をしている。とはいえ、ロケーションフリーには興味があるほどの“テレビっ子”でもない。「場所を選んでテレビを見ないと恥ずかしいっていう感覚はありますね。携帯電話のテレビもそうですけど、電車の中で見るのは恥ずかしいですよ。音が出ちゃうのも恥ずかしいですね。ヘッドフォンをわざわざつけるのも面倒くさいし、音が出ない映像を見ていても面白くないですよね」

 ゲーム好きもかなりのものだ。最近はPSPのモンスターハンターにハマっている。ニンテンドーDSのマリオカートで、対戦にもハマった。ただ、年末に発売が予定されているプレイステーション3には懐疑的だ。「買うとは思うんですけど、発売日買いはしないでしょうね。面白いゲームが出たときが買うときになるのでしょう」。一方、任天堂の次世代機「Wii」は「対戦が楽しそうだから多分買う」という。Xbox 360も「気になっています。カルドセプトのために買うかもしれません」。

 ゲームをやりたいときは、1週間でもやり続けるという西村さん。その一方、仕事を始めると「飽きるまでスクリプトを書く」という集中力を見せる。「ゲームばっかり1週間ぶっ続けでやっていると、未来検索ブラジルのスタッフに文句を言われるんです」と笑う顔にも鋭さがあった。

プロフィール
お名前 西村博之(にしむら・ひろゆき)
PC VAIO Type F
携帯電話/PDA(データ通信カードを含む) V402SH
デジタルカメラ なし
ブラウザ Sleipnir
収集ツール(RSSリーダーなど) リンクバー
メールクライアント Becky!
インスタントメッセンジャー ICQ、MSN
ファイル整理ツール(デスクトップ検索を含む) なし(マイドキュメント配下のフォルダに分ける)
バックアップツール なし
検索サイト Google
Webメール Gmail
ブログ livedoor Blog、最近自作のサービスに移った
SNS GREE
ソーシャルブックマーキング Flog
Wiki Qwik
影響を受けた人/本/Webサイト 五輪書
座右の銘 明日できることは今日やるな
手帳/ノート なし
ペン なし
その他小物(ICレコーダ、ポストイットなど) なし

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