なかなか治らない腰痛の原因は? 自分の固定観念を知り、変化させることによって、腰痛も悩みも解消する!
ビジネスパーソンが常に向き合わなくてはいけない“ストレス”。ピースマインドのカウンセラーが、毎回関連した話題を分かりやすくお届けする。危険信号を見逃さず、常に心の健康を維持していこう。
Gさんが自分の体の異変に気付いたのは、配属が変わり新しい部署で働くようになってから半年後のことでした。
以前から腰の辺りに違和感を覚えていたのですが、運動不足と長時間いすに座っている仕事環境のせいだろうと思い、そのままにしていたのです。腰の痛みは増していきましたが、忙しさのあまり何もせずにいました。ある朝Gさんは、前夜からのひどい腰痛で起き上がることができなくなってしまいました。
Gさんは整形外科を受診し、投薬などの対症療法的治療を受けましたが、痛みはなかなか取れません。その結果を見たドクターに、「痛みは自律神経の不調からくるものではないか」といわれました。
「職場にストレスがあるのではないですか」。Gさんはそういわれて初めて、「自分は職場にストレスを感じていたのかもしれない」と気付き、働き方を見つめ直すことになったのです。
「Gさんの実績が評価されての異動だよ」。Gさんは上司からそう伝えられていました。新しい配属先のスタッフも、「期待の星は何をしてくれるのだろうか」と興味津々の様子でした。自分の行動すべてに投げ掛けられる視線を、Gさんはびりびりと感じていたのです。「失敗してはいけない」「みんなの期待に応えなくてはいけない」。そう思い、自分で自分にプレッシャーをかけ続けた半年間でした。Gさんはそのことに、腰痛がひどくなるまで気付かなかったのです。
今回は、「論理療法」のアプローチでGさんの相談を見ていこうと思います。論理療法とは、アルバート・エリスによって1955年ごろに提唱された心理療法です。
その骨子は、簡単にいうと「人の悩みは出来事や状況(例:仕事が評価されない、上司に認められない)に由来するのではなく、その出来事をどう受け止めるかに由来する」ということです。この受け止め方のことをビリーフ(Belief、固定観念)といいます。
例えば、「自分の仕事は高い評価を受けるはず」というビリーフを持っていると、自分の提案が採用されないと不愉快になるのです。「自分の仕事よりほかの人の仕事の方が評価が高いこともある」というビリーフを持っていれば、たとえ自分の提案が採用されなくてもさほど不快にはならず、「今回は採用されなかったけれど、ポイントを変更して再挑戦してみるか」と思うことができます。
論理療法ではビリーフを変えるだけでなく、行動を変える(この例ではポイントを変更する)ことで、出来事を変える(採用されない→採用される)ことも提案しています。その基になっているのが、「ABC理論」です。
上記の例をABC理論で検討してみましょう。
A:出来事 (Activating event) |
提案を却下された |
---|---|
B:ビリーフ (Belief) |
仕事で高い評価を受けなければ、自分の価値は否定される |
C:結果、悩み (Consequence) |
不愉快に思う、仕事がやりにくい、職場にいて緊張する |
ABC 理論では、同じA(出来事)にあっても、B(固定観念)が違えばC(悩み)は変わってくると考えます。ただし、心の中のBを変えるだけで済まそうとすると、単なるいい訳、こじつけで終わってしまいます。Bを変えた後、できることならAも変えるように工夫すること(ポイントを変更して再提出することで、採用されるようにする)も必要です。
論理療法は、「思考、感情、行動は相互に関連しあっている」という前提に立っています。
ある悩みを解決したいとしましょう。悩みは思考の悩み、感情の悩み、行動の悩みの3種類に分類され、3つのうちどのポイントからアプローチしても、ほかの2つに連鎖すると考えられるのです。
論理療法の中心概念は「ビリーフの変容」です。簡単にいうと「自分を不幸にする思い込み(ビリーフ=固定観念)があるなら、それを変えてみよう」ということです。
自分を不幸にし、悩みを引き起こすものに、「7つの認知のゆがみ」があります。
認知のプロセスとは「感覚→知覚→認知」です。例えば、何か冷たいものがあると感じ(感覚)、「これは氷だ」と分かり(知覚)、しかる後に「口に入れても大丈夫だ」と判断(認知)する、これが認知のプロセスです。私たちはこうして認知しているからこそ、「それ(氷)を口に入れなさい」といわれても、悩んだり恐怖を感じたりすることはないのです。
7つの認知のゆがみとはどのようなものでしょうか。先ほどの提案の例を基に見てみると、以下のようになります。
1.少ない証拠を基に、独断的に物事を判断してしまう。
2.何事も白黒をはっきりさせないと気が済まない。
3.自分の関心や気になる部分だけに目を向け、結論付けてしまう。
4.自分の関心事は大きく、自分の考えに合わない部分は小さくとらえる。
5.ごくわずかな事実を過度に一般化してしまう。
6.何か悪いことが起こると自分のせいだと思い、自分ばかりを責めてしまう。
7.一時の自分の感情を基にして現実を判断してしまう。
Gさんのケースに戻りましょう。Gさんはカウンセリングによって、腰痛になったのは新しい部署で極度の緊張にさらされたためであること、その原因は自分の固定観念、ビリーフにあるらしいことに気付きました。ここから論理療法的アプローチを始めることができます。
まずはABC理論で検討してみましょう。
A:出来事 | 新しい部署で緊張して仕事をしている |
---|---|
B:ビリーフ | 失敗してはいけない、期待に応えなければならない |
C:結果、悩み | 強い腰痛で出勤が困難になる |
Gさんのケースでは、Bを変えることでAとCに変化を起こすことが可能です。B(ビリーフ:失敗してはいけない、期待に応えなければならない)を変化させるために、「文章記述法」を活用します。文章記述法は、文章完成法テストを基に田中が作成したものです。
Gさんに以下の文章を完成させてもらいます。
1.〜に越したことはない。
▼▼Gさん:仕事で失敗しないに越したことはない。
2.〜だからといって人生が終わりというわけではない。
▼▼Gさん:仕事に失敗したからといって人生が終わりというわけではない。
3.永遠に〜と決まっているわけでもない。
▼▼Gさん:永遠に仕事で失敗し続けると決まっているわけでもない。
4.〜の状況に耐えるのは苦痛だろう。それでも耐えられないわけではない。
▼▼Gさん:周りの人の期待に応えられない状況に耐えるのは苦痛だろう。それでも耐えられないわけではない。
5.〜を失敗したからといって、私の価値が下がるわけではない。
▼▼Gさん:仕事を失敗したからといって、私の価値が下がるわけではない。
6.〜は残念だ。でもこの世が終わるわけではない。
▼▼Gさん:周りの人の期待に応えることができないのは残念だ。でもこの世が終わるわけではない。
7.〜されたい。しかし、〜ねばならないというわけではない。
▼▼Gさん:期待に応えて賞賛されたい(仕事で失敗したくない)。しかし、賞賛されねばならない(失敗してはならない)というわけではない。
Gさんは、この文章記述法やそのほかのカウンセリングによって、自分のビリーフを変容させていきました。
さらにGさんは第2段階として、自分に合ったリラクゼーション法を身に付けることで、職場での極度の緊張を解くトレーニングを始めました。腰痛は快方に向かっているようです。もちろん整形外科の対症療法も、投薬も継続しています。体質改善の漢方薬も検討しているそうです。
これまで、自分の健康を気遣うことなく仕事に没頭していたGさんは、仕事も自分も同じように大切にするように行動を変化させていったのです。それが自分をハッピーにする方法だと認知したからでした。
「最近は、できないことはできないといえるようになりました。これまでは、できないことは敗北と思っていたのでいえなかったのですが」とGさんは話します。「納期が迫っている仕事があるから、いまは手を付けられない」「君も忙しいだろうけれど、この部分だけ手伝ってもらえないかな」。ほかのスタッフに気軽に声を掛けることができるようになって、とても仕事がしやすくなったといっていました。
論理療法は、問題をより柔軟に、感情的にならず理性的に、悩んでいる本人の現状に即してアプローチしていくものです。あなたも、悩みを論理療法で解決してみませんか。
シニア産業カウンセラー、 日本産業カウンセラー協会認定キャリア・コンサルタント、日本オンラインカウンセリング協会認定オンラインカウンセラー、 家族カウンセラー協会認定家族相談士。子育て相談、保育士人材育成の仕事在職中にカウンセリングを学び資格を取得。転職支援センターのキャリアコンサルタントを経て、現在ピースマインドでカウンセラーを務める。職場のメンタルヘルス、キャリア、家族関係、夫婦問題とカウンセリング分野は幅広い。「カウンセラーは相談者の伴走者」と考え、「出会い」「気付き」の中に生まれるエネルギーに心動かされる日々だという。なお、ピースマインドが提供する「ストレスCheck」を@IT自分戦略研究所で試してみることもできる。
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